
やっぱり「子ども向け」と映画を見る前には侮ってはいけない。
そういう作品にこそ「映画を見る喜び」が詰まっている。
そんな「喜び」に満ち溢れた作品をご紹介。
「若おかみは小学生!」について今日は触れようと思います。
こんな方にオススメの映画
- ジブリ映画ファン(スタッフはジブリ関連者多数)
- 昨年「すみっコぐらし」にやられた人
- 全ての未鑑賞の方(おそらく満足すること間違いなし)
これは、やはり「万人」にオススメできる映画だね
この記事を読むと
✅オススメのポイントが理解できる
✅3つの「オムニバス」が絡み合うラストに号泣できる理由がわかる
✅「若おかみは小学生!」をもう一度見たくなる
目次
「若女将は小学生!」について
基本データ
- 公開 2018年
- 監督 高坂希太郎
- 脚本 吉田玲子
- 原作 令丈ヒロ子
- 声の出演 小林星蘭/松田颯水/水樹奈々
▼あらすじ▼
小学6年生のおっこ(関織子)は交通事故で両親を亡くし、おばあちゃんが経営する花の湯温泉の旅館<春の屋>で若おかみ修業をしています。
どじでおっちょこちょいのおっこは、ライバル旅館の跡取りで同級生の真月から「あなた若おかみじゃなくて、バカおかみなの!?」とからかわれながらも、旅館に昔から住み着いているユーレイのウリ坊や、美陽、子鬼の鈴鬼たちに励まされながら、持ち前の明るさと頑張りで、お客様をもてなしていくのでした。
いろんなお客様と出会い、触れ合っていくにつれ、旅館の仕事の素晴らしさに気づき少しずつ自信をつけていくおっこ。
やがて心も元気になっていきましたが、突然別れの時がおとずれてー
YouTubeムービーより抜粋
注意
ここからはネタバレしながらの解説になります!
見事な物語構成に拍手!

巧みな手腕に脱帽
今作品は「始まり」と「終わり」が対になっている。
冒頭の「梅の香神社」での「神楽」を鑑賞する「おっこ」とその家族。
帰り道に対向車線から飛び出してきたトラックと一家の車が激突。
「おっこ」は一人奇跡的に無傷で生存するが、天涯孤独の身となってしまう。
そして祖母の経営する「春の屋」という旅館で「若おかみ」修行を始めることになる。
特徴的なのは、この冒頭。
家族を失うという、人生最大の苦しみを味わっている「おっこ」が一切の涙を見せないという点だ。
「春の屋」にきて、何度か見る夢。
その夢で両親との生活の景色を見たり、現実とシームレスに両親のことをふと思い出したり。
そういう点では彼女の心に大きな傷を残していることがうかがえる。
だが「涙」を見せることはない。
これは後述するが「おっこ」は、そのことを表に出さず、気丈に振る舞っている。
だけど彼女はまだ「小学生」
そんな姿に、我々は一抹の不安を覚えることになる。
そんな彼女を支えるのは「幽霊」だ。
彼らの存在が「おっこ」の支えになる、だけど逆に「不穏」さを感じずにはいられなくなる。
その「ドキドキ感」が作品を推進していくのだ。
この作りで我々はグッと物語に引き込まれてしまう。
ポイント
✅物語の構造を観賞後に振り返ると、見事に「対」をなしている
✅涙を見せず、気丈に振舞う「おっこ」に不安を感じる
✅いつ、この不安が的中するのか?
我々は物語に冒頭からグッと引き込まれてしまう
「幽霊」「鬼」の友達
今作品でそんな「おっこ」を支えるのは「3人」の幽霊・鬼だ。
最初に「おっこ」と出会う「ウリ坊」
彼は彼女の祖母と友人だったが、死んでおり、「春の屋」に憑いているのだ。
そしてその後「おっこ」と友達になる「美陽」
彼女は「ピンフリ」こと「真月」の死んだ姉で、誰にも相手にされなかった。
真月は「秋好旅館」の一人娘。
彼女も立場は「おっこ」と同じ旅館を継ぐ立場で、最初は「おっこ」をライバル視しているんだ!
真月は、常にピンクのフリフリの服をきているため「ピンフリ」と呼ばれている
そしてある日「おっこ」「ウリ坊」と出会い、自分を視認できる彼女たちと共に暮らすことになる。
そして小鬼の「鈴鬼」が仲間に加わる。
彼らは「おっこ」以外には姿が見えない。
だが、どんな時も「おっこ」の背中をおし、彼女と友情を深めていく。
彼らの存在がおっこの「支え」になるのだ。
ポイント
✅3人の「おっこ」にしか見えない友人が、彼女を支える
3組のお客との邂逅
今作品で「おっこ」が若おかみとして接する三組とのお客とのエピソード。
これを通じて「おっこ」は少しずつ事故の出来事から立ち直っていく。
春の「あかね」とのエピソード
まずは最初の客である父子との邂逅。
息子である「あかね」は母親をなくしたショックから塞ぎ込んでいる
「あかね」は今の「おっこ」と同じ存在だ。
一度は喧嘩をしたが、彼女は「あかね」が放っておけなくなる。
彼女が必死に考案した「プリン」を母親と食べること、そのことで「あかね」は悲しみを浄化し前を向くことになる。
ここで「あかね」への励ましは「おっこ」自身への励ましにもなっているのだ。
夏の「グローリー・水領」との邂逅
次の夏の場面で「おっこ」と出会う「グローリー」
彼女は占い師で、失恋したショックを引きずる「春の屋」にやってきている。
彼女は「おっこ」と友人になり、ショックから立ち直るきっかけをもらう。
そんな彼女は「おっこ」に愛を与える存在だ。
「おっこ」と「グローリー」は一緒にショッピングに行くことになる。
そして高速道路を走っている際に「事故の記憶」で錯乱する「おっこ」
そんな彼女を優しく励ます「グローリー」
彼女は「おっこ」に愛を与え、過去の呪縛から解き放つのだ。
エピソードとして、は前後するが終盤再登場した際にも「おっこ」を抱きしめるのは彼女だ。
一緒に来ている「美陽」「ウリ坊」は若く死んでいるので、この時初めて海を見るのだ
その姿に涙を誘われる
だが、同時にこの幸せなグローリーとのお出かけ。
ここでの「おっこ」の手に握られた「ぬいぐるみ」の形に注目すると、ここにも「不穏」さが現れている。
この描写で、我々は物語に蠢く「陰」がいつ暴かれるのか?
より強く物語に引き込まれてしまうのだ
晩秋の「木瀬一家」との邂逅
そして季節は進み「晩秋」
すっかり「おっこ」は仕事にも慣れてきて日々の充実した生活に幸せを感じてきた。
そして春の「梅の香神社」での「神楽」に出演するための練習を「真月」と受けることになった。
最近「ウリ坊」たちが現れなくなってきている、そのことに不安を感じ、練習に集中できず足を引っ張る「おっこ」
そんな「おっこ」に苛立つ「真月」
これは「温泉街」全体にとって大切な行事なのだ。
ココを深掘り!
「真月」は旅館を継ぐために「死に物狂いで努力」している
だからこそ集中力散漫な「おっこ」に苛立つのだ
二人は激しく罵り合うことになる。
そんな夜「木瀬一家」がやってくるのだ。
ポイント
✅「春」「夏」「秋」に訪れるお客との交流が「おっこ」の事故の傷を癒す
✅「3人」の「おっこ」の友達はそれに伴い、徐々に見えなくなってくる
全てが絡まるクライマックス

自分の弱さを認める「おっこ」
木瀬一家の父「文太」は「塩分」などを控えた食事しかとれない。
そんな彼のために用意された料理にも手をつけない。
「味気ない」「病院食と同じ」と、美味しい食事も取れなくなったことにショックを受ける。
その姿を見た「おっこ」は「医食同源」を勉強する彼女の知恵を借りようとする。
「医食同源」とは?
日頃からバランスの取れた美味しい食事をとることで病気を予防し、治療しようとする考え方。
「医食同源」という言葉自体は中国の薬食同源思想から着想を得て、近年、日本で造語されたものである。
練習の時の「集中力散漫」を謝罪する「おっこ」
そして自分ではどうしても手に負えないこと、言い換えるならば「弱さ」を認め、助けを「真月」に求めたのだ。
これは「おっこ」の強さだとも言える。
「お客様のため」に知恵を借りにきたことを知る「真月」は協力を快諾。
そしてついに彼女は「おっこ」を認めるのだ。
同じ志を持つ「仲間」として「おっこ」を認めるんだ
「真月」の的確なアイデアで「文太」でも食べられる料理を出すことに成功した「おっこ」
こうしてまた、一つ彼女は「若おかみ」として成長したのだ・・・。
だが、ここから物語はさらに怒涛の展開を見せる。
ポイント
✅難題を切り抜けるために「真月」に頭を下げた「おっこ」
✅彼女の「お客様」のためを思う気持ちを持つ「おっこ」を「真月」は同志として認める
✅「若おかみ」としてまた一つ成長した「おっこ」
絡み合うクライマックス
事故の真相
文太が語り出す事故の話。
実は彼は「おっこ」の家族を奪った事故の当事者だった。
逆走車を避けようとしていて、不可抗力だったが、それでも「おっこ」たちの乗る車にぶつかって来たのは彼だったのだ。
事実に頭が真っ白になる「おっこ」
ここで特筆すべきはこれまでも、シームレスに挟み込まれていた「亡き両親」がここで不意に現れるのだ。
さらにここまで、小出しにされていた彼女の「気丈」だがそれ故の「闇」
それらがここで一気に噴出するのだ。
「もう二度と現れることはない」と告げる両親。
様々な出来事に錯綜する「おっこ」は混乱する。
そんな彼女に「ウリ坊」たちは声を掛けるが届かない。
ここで今まで気丈に振る舞っていた「おっこ」の感情のダムが決壊する。
彼女は錯乱し旅館を飛び出すのだ。
そんな彼女を抱きとめるのは「グローリー」だ。
彼女は優しく「おっこ」の話を聞く。
ここで「グローリー」は全て理解したんだ
そもそも「幽霊」たちの正体とは?
前述した「ぬいぐるみ」の形。
それはまさしく「ウリ坊」たちに似た姿をしている。
つまり、彼らは彼女の幻想が生み出した「イマジナリーフレンド」だったのだ。
「おっこ」の「孤独」をおそらく癒すために作り出された彼らは、彼女が「孤独」でなくなるにつれて、見えなくなってきていた。
グローリーは「ぬいぐるみ」を見ているから、こそ理解したんだ
未来に向かって歩き出す
事実を知った「木瀬一家」は旅館を離れようとするが「おっこ」はそれを引き止める。
「私は『若おかみ』だ」と告げ、これからもこうして生きていくという意思表明をする「おっこ」
彼女は「過去を乗り越え」
そして「未来」を選び取るのだ。
事故の辛い過去を乗り越えたことは「喜ばしい」出来事だ
けれど同時にそれは「3人」の友達との別れも意味しているのだ
ポイント
✅過去のトラウマが蘇り、ここまで押し留めていた感情が決壊する「おっこ」
✅孤独からの逃避のために生み出された「イマジナリーフレンド」
✅過去から立ち直ること、すなわち「別れ」も意味することになる
別れの時

「神楽」に始まり、「神楽」に終わる
そして時間は過ぎ「神楽」が行われる。
その前に「真月」はふと亡き姉「美陽」のことを思い涙する。
彼女もまた「おっこ」と同じ悲しみを背負っていた。
それを優しく受け止める「おっこ」
ここでも彼女の成長を感じる
ここで息ぴったり舞を踊る二人。
そして最後の時を共有する「ウリ坊」「美陽」それを見守る「鈴鬼」
「生まれ変わって『おっこ』と友達になりたい」
「二人」は成仏、つまり「おっこ」のイメージからの消失を選ぶのだ。
「あの花」の「メンマ」を思い出してグッときたね
ただ、これは奇しくもだけど先日評した「スイス・アーミー・マン」のように、木瀬家の一人息子は「美陽」とささやかな交流をしている。
子供が両作ともに「幽霊」と触れ合っているのだ。
この描写があるおかげで、「虚実」の境を無くすことができたのだ。
そのため「イマジナリーフレンド」と本来であれば「心の病」の極限のような症状。
その悲惨さが目立ちにくくなっている。
この辺りのバランス感覚も素晴らしいと言える。
話を戻そう。
永遠の別れのはずだが、ここでは「悲しい」という感じは一切ない、未来への「幸せ」に満ちている。
これは「別れ」それ自体が「成長」に繋がるということを描いているからだ。
そんな「希望」に満ち溢れて物語は幕をおろすのだ。
ポイント
✅一年が経ち「おっこ」が成長した
そんな希望に満ちたクライマックス
✅この「別れ」も彼女にとって「成長」に繋がる
エンドロールにも涙を誘う仕掛けあり
今作はそこから流れるエンドロールも秀逸だ。
「おっこ」の母が妊娠中に「鈴鬼」が封印された箱、鈴を見ていたり。
そこで「おっこ」に対して「守って」とお願いしている描写がある。
エンドロールの隅から隅まで、実は周到に我々をさらに泣かせにきている。
この辺りもうまい。
アニメーションとしても上質
今作品はアニメーションとしての質をとっても非常にレベルが高いと言える。
何気ない日常のシーン、監督が「スタジオジブリ」での経験もあってか「食事」シーンは本当に美味しそうだ。
登場キャラ全てに「命」が与えられ、「アニメ」本来の喜びである、実在感に満ちている。
まさに至福の時間を過ごすことができる。
今作を振り返って
ざっくり一言解説!
手際の鮮やかさ、物語の運び方のうまさ! やはり「傑作」だ!!
まとめ
今作は「おっこ」の気丈さ。
これがいつ決壊してしまうのか?
という点で我々は物語に引き込まれてしまう。
だが「おっこ」は自らの意志で、そこにくる「3組のお客」との交流で自らの過去の傷を埋めていく。
一度決壊した感情のダム。
それを優しく受け止めてくれる「友達」がいたこと。
そして、自分は「若おかみ」だと新しい「夢」を見つけた彼女は「過去」を乗り越えるのだ。
そして「3人」の友達は彼女の側にいて、孤独な「おっこ」を支えるのだ。
事故による孤独から「おっこ」が立ち直ること、それが「3人」との別れになる。
だが彼らは成仏して「また『おっこ』と会おう」と告げる。
そこに湿っぽさは感じない。
「おっこ」にとって最後の成長に「別れ」が不可欠だからだ。
「おっこ」は自ら未来を選び取ったのだ、そんな彼女に最後に「イマジナリーフレンド」は最高の祝福を与えたのだった。
見事に一年をかけ円環をなす今作。
やはり「傑作」であること、これは否定できない!
今作の総括
✅「おっこ」が「過去」から立ち直り「未来」を選び取る様子に涙する
✅それが「イマジナリーフレンド」との別れになる、だが「祝福」に満ち溢れている、だからこそ生まれる感動
✅物語の「始まり」と「終わり」
構造が非常によくできている関心の出来
さて、今日もお疲れ様でした
また次の機会にお会いしましょう!
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