ディズニー総チェック 評論

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』が伝えたいこと【ディズニー総チェック】

今回は久しぶりにディズニー長編アニメーションを鑑賞し、評論する【ディズニー総チェック】

評論するのは長編アニメーション61作品目で、ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念作品でもある。

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』について語りたいと思います。

 

この作品のポイント

  • 100周年のタイミングで「未来への提言」
  • この提言は「ウォルト・ディウズニー」的と言えるのか?

ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』について

作品概要

基本データ

基本データ

  • 公開 2022年11月23日(日米)
  • 監督 ドン・ホール
  • 脚本 クイ・グエン
  • 声の出演(吹き替え) 原田泰造/大塚明夫/鈴木福 他

 

 

あらすじ

不思議な世界に迷い込んだ冒険家と元冒険家の親子の絆を描いた作品。

奇想天外な生き物がいる不思議な世界である動力源を守るためにやってきた元冒険家のサーチャーはその動力源の正体を知ることになる!

冒険ものとして・・・。

2020年代に入りディズニーは長編アニメを3本公開しているが、ここまでの流れを見ると大胆な方向転換をしようとしているように見える。

2020年『ラーヤと龍の王国』
これは、主人公ラーヤがまるでRPGのように世界を旅していく、アクション・冒険譚というこれまでのディズニーとしては珍しいジャンルの映画になっていた。

特徴としては、ディズニーヒロインとしては異例の「殴り合う女性像」を明確に打ち出した点だろう。
これからの時代、いい意味で男女の区別なく映画を作るという意思に満ちた作品だったと言える。

2021年『ミラベルと魔法だらけの家』
こちらでは「魔法が使える」というディズニーキャラが多い中、それが「使えない」ミラベルを主人公としている。

しかも割と冴えない存在であるミラベルを主人公とすることで、こちらも「特別性」を主人公に求めないという姿勢を明確に打ち出した作品だといえる。
むしろ特別ないことこそ、特別というメッセージ性すらあるとも言える。
個人的には非常に、言いたいことのあるタイプの作品である

 

こうした流れもあり、2020年代に入りディズニーは明らかに「ポリコレ」(「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」の略称で、politicalは「政治的」、correctnessは「正しさ」を意味し、政治的な妥当性や公平性を求めること)を意識したした舵切りをしている。

今作品『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』もこの流れを大いに継承した作品だと言える。

 

まずこの作品はクレイド家の三世代の冒険譚なのだが、その構成が特徴的だ。
いわゆる白人であるイェーガーとその息子サーチャ。
サーチャは黒人系の妻メリディアンと結婚、息子は白人と黒人のハーフであるイーサン。

そしてイーサンはどうやらゲイであり、同じくゲイのディアゾと最終的に恋仲になる。
さらに、この一家の飼い犬レジェンドは片足を欠損している。

このように様々な面に目配せをして制作された作品だと言える。

 

この点でしばし批判的な意見もあるが、個人的には今作の良かった点は、作中でいい意味で「目配せ」の部分に説明がないとこ点だ。

特にイーサンがゲイであること、そこに他の登場人物は「普通」に接している点だろう。
多様性を掲げる世界において、最もいいのは「普通」にそこにLGBTQの人々が存在していることだ。
そのことを特別視することなく、ただ自然にみんなが受け入れる土壌。

それが必要不可欠なのだ。

当たり前のようにゲイの人間はいるし、それは殊更、特別ではない。
こうした価値観が当たり前の世界を求めていくという、ディズニーの願いが何気なく描かれているのが特徴だ。

 

しかし、こうした要素はあるのだが、基本的に今作は「冒険もの」というジャンルの作品になっている。
ただ、ここで思ったのが「ディズニーは冒険モノが苦手では?」という疑惑だ。

今作は主人公サーチャたちが住む世界「アヴァロニア」では「バンド」という果実で電力を供給していたが、それが突如腐り始める。
このままでは世界から電力が失われてしまう、そんな危機を救うため冒険王イェーガーの息子、サーチャは再び冒険に出る、という話だ。

 

まず結論から言うと、この冒険の先がカラフルで不思議な異世界なこと。
そこで謎の生物が生きているなど、確かに視覚的な面白さはある。
だが、物語的な面白さがあるかといえば、そこは疑問だ。

この旅を通じて描かれるの、旅そのものの面白さよりも、クレイド家の三世代によるわだかまりや不満の解消という点だ。

 

クレイド家男子の相互理解

そもそも今作冒頭は過去の時系列から始まる。
そこで示されるのは、どうやらこの世界は四方を高い山脈に囲われているということ。

そして、この世界において英雄視されているイェーガー・クレイト、そしてその息子サーチャ。
彼らはまだ見ぬ新世界=山の向こうを目指して旅をしているのだ。

しかしその旅の途中、サーチャは光る果実=バンドを見つける。
これは電力を帯電しており、持ち帰れば大きな発見として世界を変えることができる。
事実、この世界の科学技術はこの時点で大変乏しく、馬車などに頼るレベルであった。

ただ父であるイェーガーはそれをよしとしなかった。
彼は頑なに未来は山の向こうにあると主張して聞かなかったのだ。

 

ここで彼らの中に相違が生じた。
あくまで「世界の広がり」に「未来」を見るイェーガー。
一方、「この発見こそ」に「未来」をみるサーチャ。

ここで「未来へ」の道筋に大きな隔たりが起きたことで、2人は道を違えることになる。

それから月日が経ちサーチャが持ち帰ったバンドによって、この世界の科学技術は大きな発展を遂げる。
彼にいあイーサンという息子もできて、親子でバンドを供給する農園を築き上げていた。

「いつかはイーサンに農園を継いでもらう」
サーチャの彼に未来を託そうという固い意思。
これが特に序盤では描かれ、イーサンも「そうするもの」だと思っている描写が描かれる。

 

実は直近の『マイ・エレメント』評論でも述べたが、最近のディズニー・ピクサー作品の共通点として、「親に決められた未来の否定」もしくは「自分で決めた未来の否定」
つまり、こうすれば自分が「幸せになれる」と思った理想があったが、それが実は違った。
そんな事柄が描かれることが多い。

例えば『アナと雪の女王』でアナはずっと、いわゆるディズニープリンセス的な幸せを夢見て、それが最良の道だと考えていたが、実は違ったことに気づいたりもしていた。

これらは、今に至るまでディズニーが作り上げてきた「幸せの理想像」(女性は、結婚こそに幸せがあるなど)などを否定いかなければならないという、自己改革の結果とも言える。

 

話を戻すがこの作品。
イェーガーはサーチャに「自分と同じ冒険者になってほしい」というある種の押し付け。
サーチャも気付かぬうちに「農業を志してほしい」とイーサンに押し付けていたことが描かれる。

実はイェーガーとサーチャは、親として息子に「将来を押し付ける」という点では共通しているのだ。

さらに、サーチャはイェーガーの粗暴さにうんざりもしていたという描写がある。
実はイーサンもサーチャがバンドに攻撃するクリーチャーを「害虫駆除」として対峙していた時、その野蛮さに失望する描写がある。

両者共、息子の言うことを聞かないなど、実はよく似た性質を持っていたとも言えるのだ。

今作はそんな親子三世代の蟠りを解きほぐすのがメインテーマとして描かれる。

 

そして、それを解く鍵こそ互いの声を、本心に耳を傾けることだ。
要は、この作品「親」は「子供」に良き人生を歩んでほしい・幸せになってほしいと、その人生の最良の道を歩ませようとしてきた。
子供も大好きな父親がそう言うならば、と受け入れていた。

しかし成長し、世界を知ることにより、別の将来を選びたいと考えることになる。
その時に、父の言いつけと自分の本心がせめぎ合い、迷いが生まれ、それが父への反発になるのだ。

それが序盤のイェーガーとサーチャであり、終盤のサーチャとイーサンだ。
今作はそこに冒険をしたことで互いの理解が深まり、その溝が埋まることを物語のメインの推進力にしている。

この帰結に関しては、個人的にはよく描けていたと評価したい。

 

エコメッセージとウォルト・ディズニー

ただ、映画として「わだかまりの解消」が描かれる今作。
しかし終盤明かされる「世界の秘密」によって、実はこの真相から語られる、メッセージ性が極めて強くなってしまっているとも言える。

と言うのも、この世界「アヴァロニア」と言う国がある場所は、実は巨大な亀の背中の上だったと言うこと。
地上世界とは、実は「亀の体内」だったこと。
この異世界と思われていた不思議な世界は、「体内」の世界だったことが描かれる。
(不可解なモンスターは、免疫たち)

 

個人的に既視感を覚えるのは『救命戦士ナノセイバー』(1997年4月8日から1998年1月22日にかけてNHK教育テレビ『天才てれびくん』内で放送された、実写やCGを併用したテレビアニメ)だ。

と言うか、人間が例えば生き物の体内に侵入(ナノ化して)。
モンスター化した免疫などと出会う的な作品は割とあったりする。
なのでアイデアは正直使い古された感はある。

なので世界の真相が明かされても、それは「よくありますね」と言う感想を抱いた。

 

しかし今作は実は強烈な「エコロジーメッセージ」になっている。

この世界は最後に地球に1匹の超巨大な亀がいて、その背中の上の世界であることが示唆されている。
これは古代インドの世界観「須弥山説」がおそらくベースとなっていると思われる。

 

須弥山(しゅみせん)説

古代インドの人々が考えた地球の構造とは?
この世界は巨大な半球であり、その下では、巨大な3匹の象が地球を支え、それを巨大なカメが支えていると言うもの

 

さて、これは実に面白い構図になっている。
そもそも、地球とは、これそのものが一つの生命だとも言える。

その上に住む我々人間。
つまり構図としては「亀」の上であろうが、「地球」の上であろうが、何も変わらないと言うことだ。

この作品では亀の心臓にバンドが寄生し、生命力を奪いとっていた。
それに気づいた主人公たちがバンドによる便利な生活を諦めて、亀と共存する道を選んだとも言える。

現実問題でも地球温暖化が進み、地球という命は悲鳴をあげている。
例えば電力などを生み出すために火力発電を行う、そのことで二酸化炭素が増え、地球の平均気温はどんどん上昇している。

結果異常気象で死傷者が出るなど、地球環境は著しく悪化を辿っている。

今作はまさにこうした地球の状況と亀の状況を照らし合わせて、我々に「どうするのか?」ということを問いかける。
そして、可能ならば今の生活を諦めることで、地球と共存していこうというオチになっている。
事実、彼らの文明レベルは数段階後退したことが描かれもする。

そうした点から、今作は非常に強いエコロジーメッセージを発信しているともいえる。

これ自体は理解はできる。
そして、こうしたメッセージ性のある作品を決して否定するつもりはない。
むしろ近頃の状況を鑑みて

 

ただ、仮に「ウォルト・ディズニー」が生きていてら、こんなメッセージを打ち出すのか?
そこに疑問を感じた。

そもそウォルトという人間は「人間の未来への可能性」を信じてきた人間ではないのか?
つまり人類の叡智の進歩こそが、未来をより良いものにすると信じてきた。
だからこそ彼は「トゥモロー・ランド」という未来像を作り上げ、未来の街「エプコット」というものを本気で作り上げようとしたのだ。

つまり彼ならば「今の生活」を諦めるのではなく、つまり人類の叡智の進歩を信じないのではなく、今よりも良い世界を作れる!
と人類の叡智の進歩を信じていく人物ではないのだろうか?

 

今作品はディズニーカンパニー誕生100周年を記念する作品だ。
だからこそ個人的には「ウォルトがこんなことを生きていたら、いうのだろうか?」という点を非常に疑問は感じてしまった。

もちろん現状の世界情勢を見ていれば、人類の叡智を信じるということを悠長に言ってはいられないことも理解はできるのだが・・・。

 

まとめ

ただ、総評としては、やはり「ディズニーは冒険もの」というジャンルに弱いという点を露呈はした作品だと言える。

もちろん家族三世代のわだかまりの解消など、見どころはあった。
だがアイデアの目新しさや、「冒険そのものの面白さ」
こうした点が非常に、弱い作品ではなかっただろうか?

個人的にはラストの「エコメッセージ」も、確かに「正しいものではある」
だが、現実問題として「今の生活を捨てる」ことが可能なのか?
ということや、そもそもこの思考は「未来を信じていない」とも言える。

つまり、それは「ウォルト・ディズニー」の思想そのものと真逆なのではないか? と感じてしまった。

個人的にはもっとも彼の思想から離れた結論に達したという点でも、不満の残る作品だったと言える。

 

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