映画評 評論

『シン・ウルトラマン』激推しできる理由を解説【新作映画評論】

2022年5月23日

 

さて、今回は、2022年邦画ではぶっちぎりの成績を叩き出している注目作品を紹介します。

と言うことで、日本を代表するキャラクター「ウルトラマン」を「エヴァンゲリオンシリーズ」の制作者にして、自身もファンだと公言する「庵野秀明」が企画・脚本・総監修を担当。

監督は庵野秀明と苦楽を共にしてきた「樋口真嗣」が務めて映画化した、『シン・ウルトラマン』
こちらついて今日は語りたいと思います。

 

今作のポイント

  • ウルトラマンとエヴァンゲリオン
  • ウルトラマンたちの目的とは?
  • それでも人間を「愛してしまう」

『シン・ウルトラマン』について

基本データ

基本データ

  • 公開 2022年
  • 監督 樋口真嗣
  • 脚本 庵野秀明
  • 出演 斎藤工/長澤まさみ/有岡大貴 ほか

あらすじ

「禍威獣(カイジュウ)」と呼ばれる謎の巨大生物が次々と現れ、その存在が日常になった日本。
通常兵器が通じない禍威獣に対応するため、政府はスペシャリストを集めて「禍威獣特設対策室専従班」=通称「禍特対(カトクタイ)」を設立。
班長の田村君男、作戦立案担当官の神永新二ら禍特対のメンバーが日々任務にあたっていた。
そんなある時、大気圏外から銀色の巨人が突如出現。
巨人対策のため禍特対には新たに分析官の浅見弘子が配属され、神永とバディを組むことになる。

公式サイトより引用

最高の映画でしょ!!

ウルトラマンとは?

と言うことで、この『シン・ウルトラマン』
僕としては今年何よりも注目作品だった作品なんですが・・・。

結論から先に言うと「ウルトラマンとな何か?」と言う問いかけに答える、見事な作品だと僕は思いました。
少なくとも、国産のヒーロー映画でここまでのものを作り上げた製作陣には感謝しかありませんって言うのが、正直な感想で。

 

で、この「ウルトラマンと何か?」と言う問題。


編集長
僕も以前音声配信では、取り上げた話題なんで、ぜひ下記リンクも聞いてみてください。

 

それは現状の「ウルトラマン」を知らなければならない。

 

今では「ニュージェネレーションシリーズ」として放映されてたりもしますが、これらのシリーズでの方向性として共通しているのは「ウルトラマン」という存在が人間的な存在として描かれている点だ。

つまり「ウルトラマン視点での人間味溢れる描写」「人間ドラマ」が展開されるようになっている。
言ってしまえば「光の国」の巨人も、僕らと同じように、悩む・苦しむと言うことだ。

 

しかし元々の「ウルトラマン」はそうではなかった。
「光の国」からなぜかやって来て、人類に仇なす敵を討つ存在だ。

僕はある意味で「神秘性」を「ウルトラマン」に取り戻すのが『シン・ウルトラマン』の役目だと思っていた。

それは半分正解で、半分は間違っていた。

 

 

この『シン・ウルトラマン』では、この初期、つまり元々のウルトラマンよりも、さらに「ウルトラマン」と言う存在を「人類からは理解不能」な存在に仕上げていたのだ。

 

 

極論を言うと、彼らは人間・地球などというちっぽけな存在とは違い、もっと高度な知的生命体で、宇宙のバランスを統括する存在だと言うことだ。
そこには私情も何も介在しない、宇宙の管理者としての側面が強いのだ。

 

つまるところ、別に「地球のため」に来たのではなく、宇宙全体のバランスを統制するために来たに違いないのだ。
「光の国から僕らのために、きたぞ我らのウルトラマン」と言う歌詞とはまるで違うと言うことだ。

 

編集長
まぁ例えるなら「まどマギ」における「キュウべえ=インキュベーター」的だと言える。
今作における「ゾーフィ」の存在はまさに「これ」なのだが。

 

そんな高度な知的生命体であり、宇宙の統治者が、「人間を慈しみ・愛する」ようになる。
これが今作最大の見せ場なのだ。

なので今作は「単体の生命体」としても完全なウルトラマンが、「人間」と言う「群れ」を成して生活する「生命体」つまり「単体」では不完全な生命体に思い入れていくのか?
それが争点になる。

 

 

 

「完全な個体生命」が愛するのは「不完全な集団が群れを成す生命」

先ほどあげた争点だが、これは構図としては「エヴァンゲリオン」の「人類補完計画」と実は近かったりする。
「人類補完計画」は「単一として不完全な生命体の集合体」を「単体として完全な生命体」に作り替えるものだった。

 

編集長
だから庵野脚本として、「エヴァらしさ」もきちんと踏襲しているように見える

 

しかし元々は「ウルトラマン」をベースに「エヴァ」は構想されているので、似ているというか、「どっちが先」かと言われると、「ウルトラマン」だ。
そもそも「エヴァ」は「ウルトラマン」の再解釈なのだ。


つまり今作が「エヴァ」っぽいと言うのは、実は「元ネタ」に立ち返ってきただけだとも言える。

 

ポイント

もちろん冒頭の文字で事態を説明したり、素早いカットで見せていく、こういう見せ方はもちろん「エヴァ」からの流入だし、そもそもこれは「市川崑」的なものでもある。
つまり色々な要素を構成して「古きを新しく見せる」のは、これはやっぱり「エヴァ」的だと言えるのだ。

 


ただしこの「個体として完璧な生命」が「単体として不完全な生命」に思い入れる描写。

詳しくは「カトクタイ」と「ウルトラマン」が憑依した「神永シンジ」の関係だが、ここの深掘りをもう少しすべきとは感じた。
原作とも言えるTV版が一年間のドラマだったの対して、映画が2時間ちょっととなると、それは確かに、尺足らずになる。

しかし「思い入れ」「愛してしまう」ということこそテーマだから、ここはもう少し工夫は欲しかったかな、と言うのは一言苦言を言いたいと思います。

 

ちなみに今作は「シンジ」という名を持つ、これはやはり「エヴァ」の「シンジ」との関連性も大いにあるので、そこをみてみよう。

 

「エヴァ」「シンエヴァ」「旧エヴァ」など全ての「碇シンジ」は「群れ」であることを苦しみ、他人の拒絶を望む、つまり「完全な個」を夢見る。
自分の心の隙間に他者の心の一部を凹凸のように嵌め込もと、受け入れようとする。
しかし、それで傷つくことで、他者の存在を否定することになる。

一方今作の「神永シンジ」は「個」として完璧だが、不完全な「群れ」を愛してしまう。
他者との心の凹凸を求めあい、それでも傷つく人間に「愛」すら感じてしまうのだ

 

しかし結局どちらのシンジも最終的には「他者」を求めている点にも注目だ。

 

「群れ」である人間、つまり「他人」との心のあり方に苦しんでも、それでも「他人」を愛してしまう。
それが人間なのだという「人間讃歌」として「シンウルトラマン」「シンエヴァ」「旧エヴァ」つまり庵野秀明はきちんとメッセージとして描いているのだ。

特に「シンエヴァ」で最終的には「リアル・現実」にアニメキャラが出てくるというオチをつけた後に、実写である作品でこの作劇をするのは、やはり面白いと言える。


と、大まかにストーリーとして感じたのはこんなところで、あとは今作がやはり「ウルトラマン好き」が作ったと言う、ある種のマニア的視点での作品作りも気になるところも少し指摘しておこう。

 

 

マニア視点だが、「目配せ」に終わらないのが素晴らしい!

今作「ゼットン」と言う「TV版ウルトラマン」でウルトラマンを倒した怪獣を連れてくるのが「ゾーフィ」という、「ウルトラマン」の同族だという衝撃の展開がある。

この「ゾーフィ」は原作にも登場するキャラだが、名前が「ゾーフィ」ではなく「ゾフィー」だ。
しかも「ゼットン」を連れてこない、ウルトラマンの味方として登場する。

 

これがどうして、今作最大のある種ヴィランになったのか?
それは、当時の児童書で「ゾフィー」は「ゾーフィ」と紹介され、さらに「ゼットンを連れてきた」と誤植されていた体。
これネタとして、そのまま大オチで使うという視点はマニアならではだと言える。

だが今作は、これが単純に「マニア」的な「目配せ」に終わらないのが素晴らしいところでもある。

 

 

ちなみにこの「ゾーフィ」の決断。

「人間はやばいから、太陽系ごと消えてもらいます」からの「ゼットン召喚」までの流れは、この世界観での「ウルトラマン族」が「地球人」のことなんてどうでもいい。
それが脅威になるなら「太陽系」ごと破壊してなかったことにしようという、ある意味で人間から見たら「身勝手極まりない存在」だったり「人知を超えている」
つまり理解不能な
高次元な存在だ、と言うことを物語る上で、素晴らしい描写になっていると言える。

 

編集長
あと、これは昨年評論した「三体シリーズ」にも類似点があった。
特に3作目「死神永生」の、管理者的な理論、「暗黒森林・黒暗森林理論」的でもある。

 

ちなみに人間に理解のない状態のウルトラマンは「光線」を山間部でぶっ放した。
しかし人間と同化して、人間文化を理解した際には「放射線」に配慮したり、彼の闘い方で人間を理解するという描写もある。


だからこそ「ウルトラマン族」の兵器「ゼットン」に絶対勝てないと知りながらも、立ち向かう「ウルトラマン」の姿に漂う覚悟も胸打つものがある。
そうした描写があるので、「ウルトラマン」と「ゾーフィ」の描き分けがよく出来ているとも言える。

マニア的な視点をうまく作品に投影し、それが「目配せ」に留まらないのも今作の良さだろう。

 

 

ちなみに今作ラストの「神の如しウルトラマン」が勝てない相手に「人間が叡智」で立ち向かう展開が待っている。
これは原作準拠なのだが、今作では、ゼットンの絶望感がこれまでの比じゃないレベルになっている。
そんな相手をどうやって倒すのか? という展開が待っている。

 

でもそこに立ち向かう有岡大樹演じる「滝」
彼の「天才が故に前提を覆された脆さ」から、一度は人類滅亡も受け入れるが、そこから「シンジ=ウルトラマン」のアイデアを目にして、逆転の手立てを考える、実はMVP的存在だったとも言える。


つまり「ウルトラマン」に頼る人間から、助ける存在になる展開だ。
ただここも原作から、今作の改変は素晴らしい。

原作では人間だけでゼットンを倒すんのだが、今作では人間と共同作戦をするのだ。

この辺りも絆を際出せるという意味で、素晴らしいし。
このような改変があったからこそラストの「人間が好きになったんだ」というセリフが今作で際立つというね。

 

ちなみにこれは「ヒーロー」とは? という問いかけの答えにもなっている。
つまり「他者のために、利他的な行動」ができる者、それこそがヒーローなんだということ。
それが「ウルトラマン」もできるようになったからこそ、彼もまた「ヒーロー・人間」になれたのだということだ。

このような「結論」への辿り着き方としても、今作は非常に秀逸だったと言える。

 

 

あと指摘しておきたいのは「長澤まさみ」問題ですね。
あえてこれだけに留めますが、まぁ見た瞬間ビビりましたが・・・。

しかし、ウルトラマンが元々「空想特撮」
つまり「不思議」な特撮というのが元ネタのことを考えると、あの展開もなしではないが、まぁビビりますよね。

僕も「アホかと」思いつつも、まぁでもその後のことを考えると、恐ろしいし描写になっている。
あれも「エヴァQ」的にいうと「人類の強制進化」の成れの果て「インフィニティ」的なものと言えるのかもしれないし、あれが無秩序に起こる「エヴァQ」ってどれだけ恐ろしのかというのも連想させられた。

 

編集長
今作最大に評価分かれる「長澤まさみ」問題も僕は好意的に受け取りました・・・。
初見時は「えっ」ってなりましたけどね。

 

 

ただ、これも映像的面白みとして、受け取ったり、物語として必要な要素だと思えば、これもまたよきかなと思います。

ということで「シン・ウルトラマン」
ウルトラマンのコアなファンはもちろん、軽いファン、未見の方、全てが楽しめる要素が詰まっている。
僕は高評価できる作品だったと思いますので、ぜひみなさん劇場で鑑賞してみてくださいね!!

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