映画評 評論

【映画記事】「500ページの夢の束」を徹底解説

2020年5月27日

今日は平日の夜、鑑賞するに相応しい、さくっと見れる作品「500ページの夢の束」をご紹介します。
(全然休日に見ても大丈夫ですよ 笑)

こんな方におすすめの映画

  • 平日に短めでサクッと見れる映画をお探しの方(93分)
  • 自分の殻を破る少女の姿に胸をうちたい方

平日は短い映画をサクッと見たい方は必見の映画!

この記事を読むと

「スター・トレック」が題材の理由がわかる

✅今作最大の感動のポイントについてわかる

✅今すぐこの映画を見たくなる

「500ページの夢の束」について

基本データ

  • 公開 2018年
  • 監督 ベン・リューイン
  • 脚本 マイケル・ゴラムコ(英語版)
  • 原作 マイケル・ゴラムコ『Please Stand By』
  • 出演 ダコダ・ファニング/トニ・コレット/アリス・イヴ ほか

▼あらすじ▼

『スター・トレック』が大好きで、その知識では誰にも負けないウェンディ

趣味は、自分なりの『スター・トレック』の脚本を書くこと。

自閉症を抱える彼女は、ワケあって唯一の肉親である姉と離れて暮らしている。

ある日、『スター・トレック』脚本コンテストが開催されることを知った彼女は、渾身の作を書き上げるが、もう郵送では締切に間に合わないと気付き、愛犬 ピートと一緒にハリウッドまで数百キロの旅に出ることを決意する。

500ページの脚本と、胸に秘めた“ある願い”を携えて―

YouTubeムービーより抜粋

注意

ここからはネタバレも含みます

「スター・トレック」を題材にする意味

「スター・トレック」が人気のうちはアメリカもまだ大丈夫だ!

「スター・トレック」はアメリカの人気のTV、映画シリーズで、日本でも多数のファンがいる。
最近ではJ・J・エイブラムス制作の劇場版があったことも記憶に新しいところではないか?

「『スター・トレック』が人気のうちは、アメリカもまだ大丈夫だ」

これは映画ライターの高橋ヨシキ氏がラジオで語っていた言葉である。

1966年に開始した最初の作品では、作者であるジーン・ロッデンベリーが理想とする未来像を描きつつ、現代における様々な社会問題をSFの形で提示した。

1987年以降に開始された作品においても、現実社会の複雑化を反映して、今日に至るヒットに結びついた。

ウィキペディアより引用

遥かかなたの未来では、国家・人種間の対立、差別や偏見などが無くなっているという構想の元に作られている「スター・トレック」
この作品が変わらず描いている「多様性」の素晴らしさ。

つまり「スター・トレック」はアメリカの「リベラリズム」「理想主義」のシンボルと言える。

この面を描いている作品が人気のうちは、例え「トランプ」という排他的な思想を持つ者が大統領であっても、まだ「アメリカ」は「大丈夫」物事の分別がついているはずだ。

そういうバロメータになる作品であると言える。

ポイント

✅「スター・トレック」は「多様性」の素晴らしさを描くシリーズである

自閉症の主人公ウェンディ

今作の主人公ウェンディは「自閉症」でそれが原因で唯一の肉親である姉と離れて「施設」で暮らしている。

そんな彼女は「スター・トレック」に夢中なのだ。

「トレッキー」なんて言い方をすることもあるね

それは「スター・トレック」作中にて、メインキャラである「スポック」が、感情を完全にコントロールできるが故に悩む姿が描かれ流のが大きく影響しているからだろう。

その姿に「自閉症」という悩みを持つウェンディは自分を重ねており、夢中になったということが今作で描かれる。

またもう一つ「スター・トレック」という作品は宇宙を開拓し冒険する物語であるという側面もある。

今作品ではウェンディが、一人で自分の知らない世界「新世界」を冒険する物語であると言える。
そういう意味でも物語の大切な「核」の部分が「スター・トレック」だということには大きな意味があるのだ。

ポイント

なぜ「スター・トレック」が物語の「核」なのか!?

ウェンディは自分と同じ悩みを持つスポックに深く感情移入している、だからこその「どハマり」

✅「宇宙開拓の物語」という点がウェンディの初めての「冒険」というテーマと合致している

基本に忠実な物語構成

「行って」「帰って」「成長」する

序盤

物語の基本中の基本「行って、帰って、成長する」
今作品はそれを忠実に守っているのが印象的だ。

自閉症で唯一の肉親である姉オードリーと分かれて暮らすウェンディ。
二人は「シングルマザー」の家庭で育っていた、だがそんな母も亡くなったということが語られる。

その後は姉妹で暮らしていたが、結婚し妊娠、出産。
感情のコントロールが難しく「癇癪」を時折爆発させるウェンディと共に暮らすことはできない。
そう考えてオードリーはウェンディを施設に預けたことが描かれる。

今作の冒頭、ウェンディが一見施設の言いつけを守り、ルーティンをしっかり守り感情のコントロールに努めようとしている姿が描かれる。
彼女の願いはしっかりと自分をコントロールし、再び姉と生活すること、甥っ子と遊ぶということだ。

しかし、オードリーとの面会で再び「癇癪」を爆発させるウェンディ。
そこで自分を自傷する姿を見たオードリーはその場を飛び出してしまう。

妹を愛しているけれど「怖い」と感じていたんだ

その後、冷静になった彼女は「スター・トレック」の「脚本応募企画」に自らの脚本を投函することを思い出し、郵送では間に合わないことに気づく。

そして施設を抜け出し、小型犬ピートと共にロサンゼルスのパラマウントを目指す旅に出ることになる。

✅序盤は、感情のコントロールが難しく、とても「赤ん坊」に触れられる状態とは言えない

中盤

そこから一人で道の世界へ踏み出すウェンディ。

「大通りを”絶対”に渡るな」と堅く言いつけを守っていた彼女だが、自ら勇気を出して一歩を踏み出すのだ。

そしてペット禁止の直通バスに乗るも、ピートが用を足しバスを追い出される。
親切そうな親子に財布の中身、金目のものを奪われるというトラブル。

ちなみに、この時は「赤ん坊」を自分は抱いてはいけない、と拒絶するのだ

さらに親切な老婆と一緒に乗ったバスが、居眠り運転で事故を起こすなどトラブル続出。

一筋縄ではいかない冒険だ。

ここで彼女の現状と、彼女の描いた脚本の内容がリンクするのだ。

彼女が「脚本応募」のためにかいた物語では、ピカード、スポックが苦境に追い込まれてもなお「前進」する姿を描いていている。

この彼女の描いた脚本と、現実での彼女の苦境がシンクロする物語はこびは上手いと言わざるを得ない。

そして、姉のオードリーの描写が挿入される。

そこで姉妹の姿を写したビデオを見ているオードリー。
ウェンディが癇癪を起こしかけているシーンでは、先ほどの「癇癪」を思い出して目を背けた。
二人が仲良く「オルガン」を弾き、「オーライリー」と口ずさむ場面で、過去の懐かしい思い出に目を細める。

そして「ウェンディ」が施設を脱走したという知らせを聞くのだ。

オードリーはいてもたってもいられず、妹を探すため家を飛び出すのだ。

ここで少し気になるのは、オードリーの旦那。
彼は結局最後まで、ウェンディのことを理解しようとしている場面がないんだ。
これは、全ての人間が「優しくなれない」ということを暗喩しているのかな・・・

終盤

事故後搬送された病院。
そこからも脱走したウェンディ。

その際に脚本を何十枚も紛失してしまうのだ。

ショックに項垂れるうウェンディだが、ここでも彼女は、自らかいた脚本の物語を思い出し、この危機を乗り越えようとする。

✅トラブル続きのウェンディの旅と、彼女の描いた脚本の内容がリンクしているのだ

✅彼女を勇気付けるのは、自分が描いた物語

ゴミ箱の紙を拾い、そこに物語を書き直す彼女。
どんなピンチな状況であろうとも、必死に「未知の世界」を「前進」し続ける姿は。
まさしく「スター・トレック」で描かれる物語そのものなのだ。

一方で彼女を追う側にもスポットが当てられる

オードリーと施設の先生であるスコッティはその足取りを懸命に追いかける。

この道中、スコッティは息子から「スター・トレック」について聞かされ、スポックとウェンディが共通の悩みを抱えていたことを知るのだ。
➡︎ウェンディがなぜ、こんなにも「スター・トレック」に熱中していたのかを知る

ウェンディは「知らないことを恐れていた」だからこそ「言いつけを守っていた」
そんな彼女が一人で出て行ったこと、そこに感心すらしているとオードリーに告げるスコッティ。

オードリーの「無事かしら?」という問いかけに「機知に富んだ子」であると信頼から、無事を信じていると答えたスコッティ。

ここでオードリーは妹の知られざる一面を垣間見たんだ

クライマックス

今作、必死に前進するウェンディを保護する警察とのやりとりが非常に印象に残る。

太った警察官は「トレッキー」で、動揺するウェンディに「スター・トレック」作中で登場する宇宙人の言語で意思疎通を図るのだ。

✅知らないもの同士が「共通の話題」でお互いを信頼する

そしてオードリー、スコッティと合流し、最後には無事に脚本をパラマウントに届けることができたのだ。

今作品ではそこから甘い現実を見せることなどない。
彼女の脚本は選考で落ちてしまうのだ。

元々「賞金で実家を売らないようにしたい」
そのことで「姉と再び暮らしたい」という考えだったウェンディ。

彼女がいう「私もチャンスが欲しい」は「スター・トレック」の脚本を描く機会を得たい。
そして、もう一度家族と共に暮らせるため、甥っ子と会うための「チャンス」を得たい。

彼女の「500ページの夢の束」に託した願いは「実は2つ」あったのだ。

ポイント

この冒険を通じて

✅ウェンディは未知の世界に勇気を出して飛び出すことで、精神的な成長を遂げる

✅周囲の人間は、ウェンディの知られざる一面を知ることになる

成長

今作品ではたびたび口ずさまれる「オーライリー」という歌。
これはオードリーがかこにウェンディと幼少期にオルガンを弾きながら口ずさんだ歌である。

一時的に家に帰ることを許されたウェンディは、家の外に置かれていたオルガンで思い出の歌を口ずさむ。
そして初めて甥っ子と対面するのだ。

これは「姉妹の仲が良かった頃」の音楽を再び演奏することで、その頃に関係が戻ったことを示している

物語の序盤では「とても会わせることができない」という状態だったウェンディ。

中盤では「抱っこできない」と自ら拒否をした。

そして最後には「抱っこしてあげて」という言葉に応える形で「抱っこ」をする。

彼女は、確実にこの冒険で成長したのだ。
その冒険に託された「願い」は成就しなかったかもしれない。

脚本は落選、家に帰ることもできない。

ウェンディの居場所とは?

僕はウェンディが語る、自作脚本の「エピローグ」部分に注目した。

他と異なる光はどこに行く?
居場所を見つけられたのか?

という語り。

ここで彼女は施設のベットにいる、これは「家よりも、施設で才能を発揮して生きる」ことを彼女が決めたということだ。


すなわち彼女は居場所を「自分の意思で決めた」のだ。

それでも甥っ子に会う、そして抱っこをする。小さいながら彼女は成長をした。
彼女は少しだけ成長したのだ。

それを後押ししたのは「好きなもの」の存在だ。

今作品はそんな「好きなもの/こと」があることの素晴らしさを描いている。

時には周りに理解されないかもしれない、だけどそんな「もの/こと」が自分を変える事もあるのだ。

小さな話だが、僕も「映画が好き」その理由でこうやってブログを書いている。
これも「好きなもの/こと」に突き動かされてのことだ。
すでに僕は「変化」させられてしまっている。

それは誰の人生にでも起こり得ることではないだろうか?
今作ではそんな「好きなもの/こと」で人生が素晴らしいものになる。という点を真っ直ぐに描いている。

ポイント

✅まさに物語の基本的な構造「行って、帰って、成長する」を描いた作品である

✅それを支えたのは「好きなもの/こと」

✅「好きなもの/こと」は現実でも我々を変えていることに気づかされる

今作品を振り返って

ざっくり一言解説!

胸を張って「好きなこと/もの」を極めれば、それが成長になる!

好きなものが人生を豊かにする、そのことが学べた作品だね!

まとめ

「スター・トレック」は「違い」を許容する物語だ。
今作の主人公ウェンディは「他人と違うこと」を悩んでいた。

そんな彼女にスポックというキャラは非常に似ていた。
だからこそ彼女は「スター・トレック」に夢中になった。

大好きな作品が彼女を「成長」させる。

脚本は大賞をとることはできなかった、だけど「知らないことを恐れていた」ウェンディは「知らない世界に踏み出す勇気」を手に入れた。

そして小さな成長をし「赤ん坊」を抱っこするという、小さな願いをまずは一つ叶えたのだ。

「好きなこと/もの」が人生の中で小さいながら「成長」に繋がることがある。
素敵なメッセージが最後には胸に刺さる。

「好きなもの/こと」に突き動かされる僕としては、その生き方を肯定してくれる。
そんなエールをもらえる素晴らしい作品であった。

今作の総括

「スター・トレック」という「多様性」の素晴らしさを許容する作品をテーマに、「自閉症」という他人との違いに悩む少女が影響され「成長」する物語構成が素晴らしい

✅基本の忠実な「物語構成」で非常に感情移入しやすい出来栄え

✅「好きなもの/こと」があることの素晴らしさを教えてくれる

さて、今日も読了お疲れ様でした
また近々、お会いしましょう!

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