映画評 評論

『ONE PIECE FILM RED』〜ファン的にはオールOKだけど・・・〜【新作映画評論】

2022年8月10日

 

今回は原作もいよいよ最終章に突入した国民的大人気漫画『ONE PIECE』

こちらの新作劇場版が公開されたので、早速鑑賞して評論していきたいと思います。

 

ということでシリーズ通算15作品目となる『ONE PIECE FILM RED』
こちらを鑑賞してきたので、感想を語っていきたいと思います。

 

この作品のポイント

  • 映画評論目線と、ファン目線
  • 歌唱はあくまで「方法」であり「目的」ではない
  • 全体としては質の良い作品

 

 

『ONE PIECE FILM RED』について

基本データ

基本データ

  • 公開 2022年
  • 監督 谷口悟朗
  • 脚本 黒岩勉
  • 原作 尾田栄一郎
  • 声の出演 田中真弓/中井和哉 ほか

 

あらすじ

世界中の人々を歌声で魅了する人気歌手・ウタ

素性を隠してきた彼女が、初めて世間に姿を見せるライブが開かれることになる。

そして、迎えたライブ当日、ルフィたちを含めた海賊や海軍たちが集結。

しかしそこで、ウタに関する衝撃な事実が発覚する。

公式サイトより引用

音楽をテーマにしたこと

ONE PIECE映画の位置付け

 

これに関しては前作にあたる『ONE PIECE STAMPEDE』評論でも詳しくは話したので、そちらに譲るが一応さらりと復習しておこう。

そもそも『ONE PIECE』原作が1997年に週刊少年ジャンプにて連載開始、その後あっという間に人気作品となった。

当時の「ジャンプ」作品は往々にして人気が出ると、そのまま「アニメ化」されるという流れがあり、『ONE PIECE』もその例に漏れず1999年にアニメ化されることになる。
そして、そのまま今なお放映されている、かなりの長寿アニメ番組になったのだ。

 

例えば「サザエさん」などの1話完結のアニメだと長寿化しやすいが、一つの大きなストーリーを描き続けていく「続き物」としてここまで長寿なのは異例だろ。


編集長
ちなみにフジテレビ放映のアニメとしては「ちびまる子ちゃん」「サザエさん」についでの長寿番組だ

 

 

さて、原作が人気からのアニメ化という流れが黄金ルートとしてあるならば、さらにそこから「劇場版」が作られる。
これもジャンプ漫画の宿命とも言える。
その例にも漏れず2000年に『ONE PIECE』は劇場版が制作されることになった。

ちなみに2002年公開の『 ONE PIECE 珍獣島のチョッパー王国』までは「東映アニメ祭り」の一環として制作されており、2003年『デッドエンドの冒険』以降は単独映画として制作されるようになった。
そして毎年新作映画が公開される「恒例化」が進んでいくことになる。

 

そして徐々に映画版の興行収入は減っていき、例えば原作の人気エピソード「アラバスタ編」のリメイクや「チョッパー編」のリメイクなど、正直手詰まり感が出てくるようになってきた。

 

 

その流れが2009年『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』から変わった。
原作者尾田栄一郎が、劇場版の監修にあたるようになったのだ。

 

これは先日発売されたジャンプ本誌で『名探偵コナン』作者青山剛昌との対談でも語られていたが、尾田栄一郎は長寿化してくることによって『ONE PIECE』という作品の門徒が狭くなってきた。
つまり、一見さんお断りのようになりつつあったのを、どうにかしたいという思いがあったのだ。

 

 

さらに2009年辺りから、原作でも徐々に世界観が大きくなっていき、「麦わらの一味」がバラバラに活躍するエピソードも増えていったこともある。
つまり世間の人々が考える『ONE PIECE』らしさが徐々に奪われつつあったのだ。

そういう意味で『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』以降「麦わらの一味」が勢揃いして活躍する作品を作り、新規参入をしていくという、きちんと「意義」を持って映画が作られるようになったのだ。

 

それに伴い、毎年映画を公開するという手法をやめ、数年に一度の「お祭り」としての側面も強くなっていったのだ。

 

 

そして、さらに劇場版の役割は変化していく。

徐々に原作でもキャラクターも増えていくことで、原作では中々再登場させづらいキャラクターも現れてくる。
そんな彼らに活躍の機会を与える「オールスター興行」的な作劇に変化していったのだ。
前作にあたる『ONE PIECE STAMPEDE』はその最たる例だ。

 

編集長
ちなみにこの劇場版の立ち位置の変化は『名探偵コナン』の劇場版シリーズとも非常に近いかもしれない

 

さて、こうした変遷を受けて『ONE PIECE FILM RED』はどうだったのか?
結論を言うと、前作からの流れを踏襲した「オールスター」映画としての側面を持ちつつ、『ONE PIECE』と言う枠組みの中では非常に「挑戦的」な作品に仕上がっていた。

その点をこれから見ていきたいと思う。

 

 

ポイント

  • 徐々に役割が変化していった「劇場版シリーズ」

音楽をプッシュする作劇

 

さて、この『ONE PIECE FILM RED』は一つ大きなテーマが設定されている。
それが「音楽」だ。

さて、今作は公開前からメインキャラとなる「ウタ」を中心としての告知をしていた。
公式のYouTubeなので「Vtuber」さながらにウタの動画を配信。
彼女の人気をつけることで、そして劇中の彼女の行う活動を現実にも行ったとも言える、ある種のメタ視点的な告知活動をしてきたのだ。

 

さらに、このウタの歌唱部分を「ado」が演じると言うことで、壮々たるメンバーが今作に楽曲を提供。(演技部分は名塚佳織)
その全てを「ウタ=ado」が歌うなどの活動をしてきた。

 

 

タイアップ曲一覧

  • 主題歌
    オープニングテーマ・劇中歌
    「新時代」
    作詞・作曲 - 中田ヤスタカ / 歌 - Ado

    エンディングテーマ・劇中歌「風のゆくえ」
    作詞・作曲 - 秦基博 / 歌 - Ado

  • 劇中歌
    「私は最強」
    作詞・作曲 - Mrs. GREEN APPLE / 歌 - Ado

    「逆光」
    作詞・作曲 - Vaundy / 歌 - Ado

    「ウタカタララバイ」
    作詞・作曲 - FAKE TYPE. / 歌 - Ado

    「Tot Musica」
    作詞・作曲 - 澤野弘之 / 歌 - Ado

    「世界のつづき」
    作詞・作曲 - 折坂悠太 / 歌 - Ado

 

 

この活動自体は非常に興味深いし、映画公開までにゲストキャラに焦点を当てて、盛り上げる。
それ自体は非常に面白い試みだったといえる。

 

実際に今作冒頭のつかみを「新時代」の歌唱シーンになっており、一気に今作の「ライブ感」に引き込むと言う役割は果たしていた。

そして「ONE PIECE」と言う題材でどこまで「遊べるのか」
そんな挑戦としても非常に面白い試みだったと思う。

 

 

しかし、今作において、どうしても感じてしまった「冗長感」「中弛み感」はどうしても指摘せざるを得ない。
普通だとこれは脚本の問題になるのだが、今作に関してはそこが問題ではない。

 

今作で問題だったのは「歌」だ。

 

先ほどの繰り返しだが、この「歌」を中心にする言わば「歌映画」的な試みは面白いと思う。
だが、あくまで映画において「歌」とは、一つの「表現の方法」なのだ。

例えばミュージカル作品は、「歌」「ダンス」を通じて登場人物の心情を表現し、観客に伝える「方法」の一つだ。

 

さらに「歌」を使う観点だといい見本がある。
それがMCU作品だ。
これらの作品群でも頻繁に往年の洋楽を作中で使うが、これも歌詞・歌のバックボーンを映画に絡ませることで、それ自体が「表現の方法」の一つになっている。

つまりあくまで「歌」は「表現」の方法の一つなのだ。

 

 

 

しかし今作は「歌」を描きたい、「歌」を物語の中心にしたい。
すなわち「目的化」していたのだ。

 

さらにタイアップのため仕方がないが、提供された楽曲を全て「ほぼフル尺」聞かせてしまったこと。
そしてその歌唱中は映画のストーリーの本流の流れは停滞していたのだ。
これで作品全体に停滞感が生まれたのが今作最大の失敗でもある。

 

編集長
今作の感想として「adoのライブだった」と言う声も多くあるが、もちろん狙ったとはいえ、正直やりすぎ感は否めなかった

 

そして、そもそも論の話をついでにしておくと、この作品、ここまでの大掛かりなタイアップをした「ウタ」というキャラに乗れるか乗れないか。
それもまた評価大きく分かれるのだが、それはのちに詳しく触れていく。

 

 

ポイント

  • 「ウタ」の「歌」をプッシュしすぎるあまりにバランスが崩れた
  • あくまで「歌」も「表現方法」の一つである

映画としては面白い!

 

と言うことで、先に僕なりの今作への問題点を述べたところで、映画そのものの話に入っていこうと思う。

 

まずは冒頭、今作では「ONE PIECE」世界では不問にされていた問題に切り込んでいく。
それが世界の荒廃具合だ。

 

「ゴールド・ロジャー」が「大海賊時代」を宣言して以来、海には海賊がのさばらり、暴力・略奪・支配の時代がやってきた。
そして市政の人々はその被害を受け続けている。
さらには「海軍」「世界政府」も腐敗、汚職が進んでいて、頼りにならない。

そんな世界の「負」の描写を可能な限り生々しく描いたのだ。

 

さて、ここまで「ONE PIECE」と言う作品で描かれていた、主人公ルフィたち。
彼らは「海賊」ではあるが、はっきりと彼らは「義賊」的な描かれ方をしていて、その暴力・略奪・支配に立ち向かう存在である。
そのため「海賊」に読者は悪いイメージは持ち辛くなっているが、だけどこの世界観で生きる人にしてみればやはり「海賊」は憎しみの対象だ。

そんな今まであえて不問にした面を見せた点は今作でも見所の一つだろう。

 

そして、こんな荒れ果てた世界で「ウタ」の「歌」は人々の希望であり、そして「救い」でもあるのだ。

 

 

さて、そんな世界で歌姫として活動するウタ。
彼女こそが今作のメインヴィランだ。

 

編集長
先ほども言ったが、ここまでの大型タイアップで「ウタ」を売り出してきた今作品。
正直この「ウタ」と言う存在に乗れるか乗れないかで作品に対する評価が大きく変わるといえる。

 

そんな彼女には計画があった。
それが人々を自身の能力で眠らせ、言わば「夢の世界」に閉じ込めて、辛い現実から解放しようとするものだ。
そして自死して、「夢の世界」を完成させようとする。

 

この彼女の計画は「矛盾・欺瞞」に満ちている。
「暴力」「差別」に「支配」された世界から逃れる先は、結局「ウタ」が「支配」する世界に他ならないからだ。
その「夢の世界」には自由もない。

それは「奴隷」と変わらないのだ。
つまり真の意味で「救いなり得ない」と言うことだ。

 

そして、そもそも論の「私が救う」と言う思想自体は素晴らしいかもしれないが、これは圧倒的な「上から目線」思考から生まれるものでもあることも見逃せない。
(実質「人類補完計」)

 

考えなければならないのは、ウタ自身がその欺瞞に途中まで気づいていないことだ。
ウタが中盤に子供たちが現実に戻ろうとした際に怒るシーンがあるが、これは「支配者」として自分に逆らう者への暴力でもある。

これはルフィが本編で言い続けている「自由」とは真逆の思想だ。
だからこそ幼馴染の二人が対立する話に今作はなっていく。

 

そしてウタは自分が「支配者」になってしまったことに気づき、絶望してしまう。
まさに自分が憎んだ存在に、自分が気付かぬうちになってしまった、と言うことだ。

 

編集長
この辺りの対立構造は非常に興味深くできている

 

 

そして今作ではルフィは一度もウタを攻撃することはなく、あくまで「主義主張」の対立軸を描き続けていたのも特徴だ。
あくまでルフィは彼女を利用する「トットムジカ」と呼ばれる悪魔と戦うことに終始する。

 

ちなみにこの悪魔のデザインは「まどか☆マギカ」の「オクタヴィア」を彷彿とさせるし、世界観が「劇団イヌカレー」っぽく、「ONE PIECE」らしくない世界観が描かれるのも面白い点だったと言える。

このように工夫を凝らし、面白い作劇にキチンとなっているので、見応えという意味では十分にあると言える。

 

 

ポイント

  • 不問にされていた世界描写
  • 作劇もキチンと工夫されている

ウタの運命

 

さて、今作最大の特徴は、ウタが原作でも人気のキャラクター「シャンクス」の娘である点でもある。
そのため映画本編にシャンクスの登場も示唆されていたが、これはある意味で「諸刃の剣」だ。

 

と言うのも「ONE PIECE」と言う作品でルフィの成し遂げるべきことの一つが「シャンクスとの再会」だからだ。
本編でも「頂上戦争編」でも、ニアミスはしたが会ってはいない。
そこまでに留めているのだ。

今作も「夢の世界」「現実」と二箇所に話を分けて、シャンクスとルフィが直接会わないようにしている。
特にルフィサイドはシャンクスの存在を窺い知る、程度に留めている。
この辺りは、おそらくかなり気を使ったポイントだったのではないか。

 

編集長
やはり本編で大いに盛り上がるポイントになるからね

 

 

さて、そんな彼女は「ONE PIECE」世界にしては中々心の闇を抱えた存在だ。
そもそも、彼女の最終的な望みは、表層的には「救い」にも見えたが、かなり利己的なものだったことが終盤明らかになる。

前述したが、それが集団を巻き込んだ自死だ。

 

つまり、計画そのものの「欺瞞性」に加えて、結局のところ「自死」と言う割と利己的で、非常に破滅的な描写が加速していく。
そしてそれは「トットムジカ」と言う悪魔を呼び起こしてしまうことになる。

 

終盤以降は割と「病んでいる」描写が増え、これまでの「ONE PIECE」世界では珍しいタイプのヴィランになっていく。

 

この彼女の抱える「闇」の部分。
そして実は、彼女は全てを知っていたと言う点、そこを受けて、彼女の心情に乗れるか乗れないか。
それもまた作品の評価に大きく関わるポイントだろう。

 

編集長
あまりにも「自分勝手な理論」に僕は正直、飛躍しすぎかなと思わされた

 

 

そんな事態になりながらルフィが戦うのはあくまで「ウタ」を通じて復活した「トットムジカ」だ。
最終的にウタは誰かに「力」で負けるのではなく、自分の考えが過ちだったと自分で気づく。

つまり、自分で自分の誤りに気づき、「命」を使い果たすと言う、誰かに負けて「死ぬ」のではなく、あくまで「自らの意志」で死ぬ。
そこに敢えて救いの手は差し伸ばされないと言う、割と突き放すラスト今作は迎える。

 

 

これは監督である谷口吾郎さんが手掛けた『コードギアス 叛逆ルルーシュ』でも主人公のルルーシュが「良き世界」を目指していた。
しかし彼もまた、世界を巻き込んだ果てに「死んだ」と言う点では共通点がある。(自分の「命」で新世代に全てを託した、そう言う意味でも実は似ている)
おそらく、これは監督からの強いメッセージだと言える。


 

 

そして、エンディングに入る瞬間までもが非常にビターな味わいになっていて、これまでの劇場版にない味わいになっているのも新鮮だったと言える。

 

何度も言うが、今作はここまでの流れで「ウタ」という存在に「乗れる」か「乗れない」かで評価は大きく分かれる。
それほどまでに強烈なインパクトを残したキャラクターだったといえる。

 

 

ポイント

  • この流れも含めて「ウタ」に感情移入できるかが、作品評価を分ける大きな要因

 

 

今作を振り返って

ざっくり一言解説!!

ウタにのれるか、のれないか・・・。まさに「ウタ」次第!

かなり感情移入はしにくいキャラだとは思うけど・・・。

まとめ

 

と言うことで、今作は何度も繰り返すが「ウタ」次第。
彼女をバズらせる為の告知活動をしてきたこともあり、やはり彼女中心の作劇になっている。

しかし、彼女の行動理念にはやはり「利己的」な面や、そもそも「私が救う」と言う言葉自体には「圧倒的な上から目線」が見え隠れする。

 

メモ

少々穿った見方をすれば、悪徳宗教なんかは、まさに「救ってやる」視点的な部分から始まる。そして、人々につけこんでいき、養分=奴隷化する面もあるので、こうした部分が非常に今風だと思わされた。

 

 

そして、あまりにも「歌唱」を目的化し過ぎている部分も映画としては気になる部分だ。
あくまで映画において「歌唱」は「表現方法」の一つなのだが、そこを少し見失っていたのも少々残念だったと言える。

 

それらも含めて、乗れるか、乗れないか?
これが映画を見た後の感想が分かれる、重大なポイントだといえる。

 

ただし、僕は個人的に「ONE PIECE」ファンだし、そういう視点からは十二分に楽しめる作品だったと言うことも言っておきたい。

なので結論は40億点で、おすすめなんです!!

 

 

まとめ

  • ウタ中心の作劇なので、彼女のキャラに乗れるか、乗れないかがポイント!
  • 「歌」は映画の表現の一つの方法だが、今作は「目的化」していたのが気になった。

 

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