映画評 評論

『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』〜SEED新作に向けて、総チェック〜

今週、評論するのは久々のガンダム作品。

中でも大人気アニメシリーズ『ガンダムSEED』の再編集版がHDリマスターされ劇場公開され話題沸騰中!
2024年1月26日には続編も公開するということで、この機会に「SEED」を再鑑賞して評論していきたいと思います。

ということで『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』
こちらを鑑賞してきたので、評論していきたいと思います。

 

『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』について

作品概要

作品について

基本データ

  • 公開 2023年
  • 原作 矢立肇、富野由悠季
  • 監督 福田己津央

 

あらすじ

「機動戦士ガンダムSEEDシリーズ」は、C.E.(コズミック・イラ)を舞台に
遺伝子を調整し、生まれながらにして優れた身体能力や頭脳を持つ人類(コーディネイター)と
自然のままに生まれた人類(ナチュラル)の戦いを描いた作品である。

C.E.71~を描いたTVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』(HDリマスター)全48話を3部作に、
その後のC.E.73~を描いたTVアニメ『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(HDリマスター)全50話を4部作に再構成した 特別総集編、スペシャルエディションを劇場にて連続上映!

C.E.75~を描く、劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』への軌跡を辿る!

 

『機動戦士ガンダムSEED』の持つ歴史的意義

まず作品について触れるよりも、そもそも『機動戦士ガンダムSEED』とは?
というとこから軽く触れておきたい。

この『機動戦士ガンダムSEED』は2002年10月5日から2003年9月27日にかけて全50話が放送された。
平成年間に放映された「ガンダムシリーズ」としては平均視聴率は最高。
2000年代初頭のアニメ作品としては間違いなくナンバーワンのアニメ作品だったとも言える。

それに伴いガンプラなどの関連グッズ売り上げも好調。
過去のシリーズ作品のグッズ以上に売れ、ブームを巻き起こした「SEED」
つまり今なおガンダムシリーズが継続しているのは「SEED」の成功があったからこそだとも言える。

 

さて、そんな『ガンダムSEED』だが、これは見た人誰が思う事だと思うが、他のどのシリーズ作品よりも「1stガンダム」を意識して作られているという点だ。
(2023年時点でも、ここまで「1st」に近いシリーズ作品は存在しない)

これは「ガンダムシリーズ」というシリーズ全体がある種の「到達点」まで達したからだろう。
それが1999年から2000年に放映された『∀ガンダム』の存在だ。

というのもこの『∀ガンダム』という作品は非常に秀逸な「発明」をした作品だと言える。
この作品は1stガンダムを手がけた富野由悠季の監督作品だが、この作品の放映された1999年の時点で、宇宙世紀シリーズ、アフタコロニーシリーズ、未来世紀シリーズなど、様々なユニバース展開をしていた。

これらは基本的に交わることのない独立した世界観を持つのだが、『∀ガンダム』は、どの時間軸・ユニバースで歴史を紡いでも、最終的に『∀』の世界に辿り着く。
いわば歴史の果てとして描いてみせたのだ。
つまりこれ、以後に別ユニバースでガンダムが制作されても、それは全て『∀ガンダム』につながる、ガンダムの歴史の最終回を提示したのだ。

 

つまりシリーズとしては実質「終わり」をみせてしまっている段階まで来ていたのだ。

 

そこで心機一転。
2000年代、新しい年代に「1stガンダム」に近い作品を制作する。
絶好のタイミングが『ガンダムSEED』だったのだ。

そんな「ガンダムSEED」を三つの特別編に再編集しなおしたもの、それがこの「スペシャルエディション3部作」というわけだ。

ちなみに初代「機動戦士ガンダム」もTV放映版を三部作に分けて上映して大ブームになった。
ちなみにSEED以降のシリーズでもTV版放映後に「再編呪版の劇場上映」することも多い。
これは、ガンダムにはありがちな手法だとも言える。

 

1stらしさと時代の融合

さて、まずはこの作品は何を描いているのか?
一応の歴史観を見ていきたい。

この作品は「地球連合」(ナチュラル)と「ZAFT」(コーディネーター)による戦争の物語だと言える。
遺伝子操作によって優秀な人間として生まれたコーディネーター。
その存在を認められないナチュラルが上記の二つの勢力に別れて長年戦争をしているということになっている。

 

この作品では冒頭、「中立宇宙コロニー ヘリオポリス」で平和に暮らしている主人公「キラ・ヤマト」

彼は中立地帯で暮らしていたのだが、ここで「地球連合の新型MSが開発されている」という情報を聞きつけた、ZAFTにより戦闘を仕掛けられてしまう。
キラは否応なく戦争に巻き込まれ、成り行きで「ガンダム」に乗ることになることが描かれる。

しかも地球連合軍の母艦アークエンジェルは正規兵が死に、寄せ集め集団で運用されるなど、これはまさにホワイトベースのあり方とよく似ている。
この一連の流れは、非常に1stを彷彿とさせる。

 

しかし、そこにキラが幼少期の親友アスランと敵味方別れて戦うという展開など、ドラマ部分の盛り上げも追加するなど、冒頭から面白い要素に溢れていると言える。

ちなみにキラはコーディネータでありながら、ナチュラル側で戦うことになる。
(アークエンジェルに友人が乗っているため)
この構図は2002年当時は「アフガニスタン戦争」などで、米国のイスラム教徒が米兵として同胞と戦うことになった。

このような時代の流れを反映してのことだ。

 

ちなみにこの作中でキラが乗る機体「ストライク」は当時、特撮で流行していた手法、戦局によってフォームチェンジするというアイデアを踏襲している。
そのため戦闘での絵のバリエーションが増えているのが特徴だと言える。

 

キラの災難

この作品「虚空に戦場」はキラが戦闘に巻き込まれ、ガンダムに搭乗することになる。
キラは仲間が成り行きとはいえ、母艦アークエンジェルの乗組員になったため、友達を守るためにガンダムでの戦闘を余儀なくされる。
(彼しかガンダムに乗れないのは初代主人公アムロと重なる)

さらに、そこでアスランというかつての親友と敵味方別れて戦う状況に陥ってしまうキラ。
彼は常に「友達を守るため」そのためにかつての「親友と戦う」ことになり、常にジレンマを抱えて苦しむことになる。

 

そんな局面で苦しむキラだが、特に今作品では「フレイ」という、これまたとんでもない女性に振り回され、追い打ちをかけるようにメンタルを病んでいくことになる。

このフレイという女性はガンダム史上でも類を見ない「悪女」である。
コーディネーターを徹底的に差別する思想。
父が戦死し絶望したフレイは、キラに好意があると見せかけて、まんまと利用し敵兵を殺害するように唆す。(ちなみにフレイはキラの友人サイの彼女である)

そのために手段を選ばないという、中々の畜生ぶりを発揮していく。

 

そんな状況で、キラは守りたいものを守ることが出来ず苦しみ、戦うことの辛さ。
こうしたものを少しずつ乗り越えながら、1人の戦士になっていくのだ。

ちなみに、そんな苦しみの彼に転機を与えるのはラクスとカガリという2人の女性だ。
基本的に今作構図は、1stに近いが、キラの周りに女性が集まるという構図は、冴えないアムロとはまるで違うと言える。

 

特にこのラクスとカガリは、フレイとは全く違う性質を持つ存在だ。
ラクスに関しては、この「虚空の戦場」時点では、一体何を考えているのか?
突然、真に迫るセリフを吐いたりはするものの、とんでもなく非常識な存在だとも言える。

ただ、彼女はコーディネーターでありながら、ナチュラルを差別するような思想はない。
ZAFTの歌姫という地位であるために、自分でできる限り平和への道を模索しているのだ。

カガリは逆に非常に男気勝りな女性だ。
素性を隠しながら、ZAFTと戦うレジスタンスに所属しており、そのエネルギッシュな行動・思想は後にメンタルを病んでしまっているキラを徐々に変化させていく。

 

さらに彼に「兵士としての心構え」を説くのは敵兵である「砂漠の虎 バルドフェルド」だ。
彼は1stにおけるランバ・ラル的な男だとも言える。
特にバルドフェルドは、キラの「仲間を守るために戦う」ということに疑問を投げかけるなど、彼の成長に大きく起因する人物でもある。

 

キラを導くまともな大人は敵兵だったり、味方にいても戦死。
アークエンジェルの構成員が未熟な人間しかいないため、キラを支える「大人」の不在。
非常に歪な状況で彼は苦しみのドツボにハマっていく。

ちなみにこの構図もガンダムあるあるで、味方の大人はまともな人間がおらず、実は敵兵こそ「大人」であり、その敵兵に主人公が感化され成長していく。
非常にガンダムらしい展開を見せていくのだ。
つまり繰り返しになるは、それは無茶苦茶1stっぽいということだ。

 

今作は最終的に地球でのバルドフェルドとの戦いに勝利する時点で幕を下ろす。
難敵の撃破は非常に上がる展開のはずが、キラの決意はこの戦いに勝利することで、乱れていくことになる。

守りたい物のために戦う。
戦う大義は彼の中にある、だがそのために彼は殺人を繰り返していく。
しかし戦争はより過激にエスカレートしていく。

そんな苦しみに満ちた涙で次作へと続いていくことになる。

 

わかりやすいが所詮はダイジェスト・・・

ただし、今作品が「劇場公開用の作品」として出来がいいかと言われれば、疑問が残る。

特に今作品、一つの出来事が描かれ、その出来事が突然ぶつ切りになり次の出来事が描かれる。
その間の出来事は回想という形で描かれ時勢が行ったり来たりというのを何度か行う。

かと思いきや、ぶつ切りになり次の出来事が描かれ、その間の部分は省略という形で描かれることもある。
これを併用しているために、「あぁ、ここは説明ないんだ」と余計に混乱させられてしまう。

これが映画の流れを一々、ぶった斬る作りになっており素直にうまくない。
他にやりようがあっただろう?
と言いたくなる演出が多岐にわたる。

ていうか、普通に時系列操作せずに、時系列通やれば解決する気がするのは、僕だけだろうか?

あと基本的にこの作品を見ただけでは結局理解不能な部分も多く、やはりテレビシリーズの視聴こそマストなSEED体験だと言える。

 

ただ、他の作品でTV版を劇場用に再編集したものが、きちんと映画としてのクオリティを担保しているものもある。
例えばまどマギの「始まり・永遠の物語」などは、映画版としてもきちんと完成度の高いものを製作できていた。

そのレベルを求めるのは酷だろうが、しかしもう少しやりようがあったのではないだろうか?

この先2作品あるが、この点はかなり心配になる映画体験だった。

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