映画評 評論

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』なぜトムは体を張るのか??

2023年7月26日

今回は、2023年公開映画の中で、最も注目されていると言っても過言ではない作品。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

こちらを鑑賞してきたので、その感想を述べていきたいと思います。

 

 

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』について

この作品のポイント

  • ストーリーは正直まどろっこしい点が多い
  • 昨年の「トップガン」と同じく、トムの意思表明の作品
  • 何にせよ、これはすごいことは間違いない!

 

基本データとあらすじ

基本データ

  • 公開 2023年
  • 監督 クリストファー・マッカリー
  • 脚本 クリストファー・マッカリー
  • 原作 『スパイ大作戦』ブルース・ゲラー 
  • 出演者 トム・クルーズ/ヘイリー・アトウェル/ヴィング・レイムス 他

あらすじ

IMFエージェント、イーサン・ハントに課せられた究極のミッション
—全人類を脅かす新兵器が悪の手に渡る前に見つけ出すこと。

しかし、IMF所属前のイーサンの“逃れられない過去”を知る“ある男”が迫るなか、
世界各地でイーサンたちは命を懸けた攻防を繰り広げる。

やがて、今回のミッションはどんな犠牲を払っても
絶対に達成させなければならないことを知る。

その時、守るのは、ミッションか、それとも仲間か。
イーサンに、史上最大の決断が迫る—

公式サイトより引用

意図せず、非常意味深い作品になってしまった

映画としては大味。人物相関が複雑

まずこの作品、基本的には”かなり大味”な作品になっている。

というのも、基本的にアクションを”魅せる”タイプの作品になっていて、そのために”物語”があるからだ。
そのため、どうしても突飛な展開は目立つ作りでもある。

 

物語の冒頭。
海底でのロシアの潜水艦が沈没するシーンから映画は幕をあける。

そしてシーリーズではお約束の、イーサンがIMFから指令を受けとるシーンに突入。
「例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで」というメッセージを受け取る。

そこからいきなり中東の砂漠での大見せ場。
開始30分で、クライマックスでもおかしくないアクションが展開されていく。

基本的にそこから場所を変えながら、生身でそれをしてるのか? 
どんどん映画のテンションが上がりながら見せ場が連なっていく。
牛丼にうなぎを乗っけました的な、大味な展開が続いていくのだ。

 

 

しかし、映画として少し焦点がぼやけるのは、これが前後編の前編であるということもあるが、今回の作中でのマクガフィンとなる「2本の鍵」
これを巡ってイーサンたち、IMF上層部、CIA、武器商人。
そして、日本字幕では「それ」と呼ばれる「人工知能(AI)エンティティ」が雇った人間ガブリエル。

これらの勢力が複雑に絡み合う、割と難解な作りになっている。

正直この難解さ、脚本をもっと練り込めばある程度は解消できたはずだし、整理することも可能だったはずだ。
ただ、これに関しては後半を見れば、「なるほど」と思える可能性があるので、とりあえず評価は保留だ。

 

さて今作のヴィランは人工知能「エンティティ」だ。
このAIは人間のコントロールを離れて、インターネットを移動、世界中を混乱に陥れていく。
イーサンたちは何とか、人工知能を破壊するために、その「ソースコード」が書き込まれた「2本の鍵」を手に入れようと奮闘するのだ。

ちなみにこのAIを巡って、イーサンたちと彼らの上層部も意見が食い違っているのも、今作の難しいポイントだ。
あくまでイーサンたちを雇う上層部は、AIを軍事目的で使用しようとしているのだ。

 

つまり、過去の作品以上に、イーサンたちには味方がいなくて、孤軍奮闘を余儀なくされるのだ。

 

 

AIをヴィランにする理由

今作のヴィランはAIである「エンティティ」と、それに雇われた存在であるガブリエルだ。
ただ、「エンティティ」はとはいえAで、そのため現実に「実体」として姿を持つわけではない。
そのため、あくまで「実体」を持つ存在という意味合いでガブリエルが必要だったのだろう。

ただ、この過去の因縁というのが、まだ明らかにされきっていない。
その分、どういう因縁があるのか不明瞭だったのも、今作が今ひとつ飲み込みにくいポイントの一つだったと言える。

 

しかしながら、今作のAIがヴィランであるということは非常に意義深いことだと思える。
というのも、タイムリーな話題として現在(2023年7月)の時点で、「ハリウッド俳優組合」によるストライキで映画制作が停止しているという件がある。
これは端的にいえば「動画ストリーミングサービス」で再生数に応じて、報酬を求めているのが争点の一つだが、もう一つの争点に「AIによる機械学習の規制」という点がある。

編集長
これによって職を失う、俳優が大量に出る可能性があり、そこを危惧しているということだ

 

今作は後者の「AIの発展」
つまり科学技術の暴走に対してイーサンが立ち向かう構図だが、実は俳優「トム・クルーズ」は俳優として、ずっと科学技術の発展と闘ってきたのだ。
ちなみに昨年の『トップガン マーヴェリック』実はこの作品にもこれは通ずる点もある。

 

というのも1990年代に入り、CG技術が発展したこと映画の視覚表現の幅は一気に広がった。
特にエポックメイキングなのは1993年スティーブン・スピルバーグの作品『ジュラシック・パーク』だろう。
この作品は作中で「過去の生命」である「恐竜」を科学技術で甦らせることで、人々がそれに驚愕するのだが、これはCGで恐竜を見ている観客と同じ反応だと言える。

 

しかし、当時はCGという技術自体で観客は感動をしたが、徐々に目が越えると、それ自体では感動できなくなったのだ
逆に、どんなにすごい映像でも、どんなにすごいスタントシーンでも「CGでしょ」と口にするようになったのだ。

 

トムはまさにそんな「CGでしょ」と言われることを嫌うのだ。

 

だからこそ、今作でも予行でも使われる断崖絶壁をバイクでトップスピードで駆け抜け、そのままダイブする。
普通こんな無謀なこと、全てグリーンバックで行うが、彼はこのシーン撮影のために6度このスタントに挑戦をしている。

それは何故か、理由はただ一つ。
「それをやって、みんなに驚いてほしい」からなのだ。

それこそ「俳優組合」がストの理由の一つに挙げている「AIによる機械学習」でエキストラを全て生成することが可能なんてこと、トムが一番許してはおけないことなのだ。

 

だからこそ、彼は「無茶苦茶」だと思うようなアクションをずっと演じ続けているのだ。
科学技術にある意味で、アナログで挑む、脳筋根性の塊なわけだ。

だからこそこの作中でも、ハイテクなスパイメカが使えなくり、シリーズのどの作品に比べての、脳筋レベルが上がっているのも特徴だ。
このシリーズでは「そんなバカな」と半笑いしてしまうような、高精度の秘密道具があるのだが、AIに妨害されてそれが使えないという状況に陥る。
そこで彼らは、本当に行き当たりばったりな作戦を行う、ある意味で「AI」が一番怖いのは「ばか」というのを地でいくのだ。

 

 

ノープランで撮影する!

しかしもっと恐ろしいことに、この作品、実は「ノープラン」で作っている。
というのも、トムが「こんなことやりたい」というのをストーリーの展開などを考える前に、先にアクションを撮影。

それを無理くり繋げていくという作り方をしている。

そんなことをすると「予算」が「青天井」になり、制作費が嵩む。
そうならない為に、普通は「ストーリー」を作り「撮影」をするが、そんなこと彼には関係ない。

「すごいもの見せてやる!」

その彼の熱意がエスカレートして、今作は制作費がなんと326億円という大台に乗ってしまっている。

 

ちなみにクライマックスの列車アクションのシーン。
これは監督が列車を崖から落とすシーンを思いついたようで、鉄道会社に「落とす用の列車を貸して」と頼んだが、断られたのだ。
しかし、諦めるわけがないのが製作陣。(普通はCGで作ります)

ならばと、豪華列車を撮影用に作ってしまうという。
そして、せっかくなら走行中の列車の屋根でアクションシーンも撮ろうかということで、実際に動いている列車の上で撮影を敢行するという。
とんでもないことをやっている。

そしてクライマックスは念願の列車を崖から実際に落とすという。
しかもそれが3段落ちの展開。
正直ギャグなのか? と劇場で笑いも漏れたが、もうお腹いっぱいになるのだ。

ちなみにこの「アクションありき」で物語を作るからこそ、この作品度々変な展開を見せる。
そもそも、イタリアのパーティ会場に行ったのは、そこで鍵の受け渡しをするからだ。
しかし、ガブリエルが「ここでその必要はない」「明日の列車で受け取ろう」といきなり言い始め、めちゃくちゃ不自然な展開になる。

 

どう考えても、人工知能エンティティもそこにいたし、そこで鍵の受け渡しをする、しかも「鍵」は相手側は早めに確保しておくに越したことはない。
そこにイーサンが乱入し争奪戦をする。
これが一番展開としては綺麗なはずだ。

 

なぜこんな不自然なことをするのか?

 

それは「列車アクション」をやりたいがためだ。
そのため無理くりに物語を繋げないといけない。
だからこそ、こんなに不自然極まりない展開も辞さない。

 

しかし、この無理くりなストーリテリングはきっと「AI」にはできない。
「AI」は「予算」など様々な制約をきちんと整理して、それを論理的に突き詰めた作劇をするからだ。
行き当たりばったりな展開など、絶対に描かないのだ。

ある意味で、この映画を制作する構図も「AI」VSトム・クルーズだったというわけだ。

 

トム・クルーズはCGでなんでも生み出せてしまう時代になった時から、ずっと生身のアクションにこだわり、「そんなことする!?」というような無謀なことにも挑戦し続けた。
負傷し、ボロボロになりながらだ・・・。

そんな彼が、この「AI時代」に、役者の仕事を奪うような「動画生成能力」を持つ存在に立ち向かうのは、ある意味で必然だったのだろうと思う。

これが偶然にも「ハリウッド俳優組合」が求める「AIの規制」という声と重なったのだ。

 

確かに作品の作り方によって、結果物語は破綻しているというレベルで飛躍、飲み込みにくさはある、今作品。
しかし、それでも悪い気がしないのは、この「破綻」を含めて「人間」なのだということを教えてくれるからだ。

 

今後「AI」が脚本を作る時代が来るかも知れない、役者を全て「AIが生成」して、映画が生まれる時代も来るかも知れない。
しかし、「論理的思考」では到達できない、「人間だから」生み出せる驚き、ぜひ劇場で体感してみてほしい。

映画評 評論

2023/8/31

『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』〜SEED新作に向けて、総チェック〜

今週、評論するのは久々のガンダム作品。 中でも大人気アニメシリーズ『ガンダムSEED』の再編集版がHDリマスターされ劇場公開され話題沸騰中!2024年1月26日には続編も公開するということで、この機会に「SEED」を再鑑賞して評論していきたいと思います。 ということで『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』こちらを鑑賞してきたので、評論していきたいと思います。   目次 『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』について作品概要『機動戦士ガンダムSE ...

ReadMore

ディズニー総チェック 評論

2023/8/27

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』が伝えたいこと【ディズニー総チェック】

今回は久しぶりにディズニー長編アニメーションを鑑賞し、評論する【ディズニー総チェック】 評論するのは長編アニメーション61作品目で、ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念作品でもある。 『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』について語りたいと思います。   この作品のポイント 100周年のタイミングで「未来への提言」 この提言は「ウォルト・ディウズニー」的と言えるのか? 目次 『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』について作品概要基本データあらすじ冒険ものとして・・・。クレイド家男子の ...

ReadMore

PIXAR総チェック 映画評 評論

2023/8/19

『マイ・エレメント』〜完全なる私小説〜

  今回は「ピクサー」の27作品目となる長編アニメーション映画最新作『マイ・エレメント』 こちらの作品を鑑賞してきたので、感想を語っていきたいと思います。   目次 『マイ・エレメント』について基本データ あらすじ韓国系アメリカ人監督の語る「私小説」どストレートな恋愛映画腑に落ちないラスト 『マイ・エレメント』について   基本データ 基本データ 公開 2023年 🇯🇵8月4日 監督 ピーター・ソーン 脚本 ジョン・ホバーグ/キャット・リッケル/ブレンダ・シュエ 製作総指揮 ピート・ドクター 出演者 リー ...

ReadMore

映画評 評論

2023/8/15

やはり『バービー』は名作だった!

今回も新作映画を鑑賞してきたので、感想・評論をしていきたいと思います。 今回は、世界中で愛され続けるアメリカのファッションドール「バービー」を、マーゴット・ロビー&ライアン・ゴズリングの共演で実写映画化した作品。日本では8月11日より公開された『バービー』 こちらの感想を述べていきたいと思います。   目次 『バービー』について基本データあらすじ冒頭から爆笑の展開ケンという存在何者にならなくてもいい、そのままでいい完璧ではない、でも「それでもいい」 『バービー』について 基本データ 基本データ ...

ReadMore

映画評 評論

2023/8/9

『キングダム 運命の炎』はやはりすごい!

今回は、漫画家・原泰久による、累計発行部数9,500万部を超える同名タイトルの人気漫画を実力派キャストで実写化した「キングダム」シリーズ。 その、シリーズ第3弾となる最新作『キングダム 運命の炎』 こちらを鑑賞してきたので、感想を語っていきたいと思います。 目次 『キングダム 運命の炎』について作品についてあらすじ何度もいうが、ここまで出来ているのは「凄い!」静かな前半このシリーズ最大の功労者「大沢たかお」まとめ 『キングダム 運命の炎』について 作品について 基本データ 公開 2023年 監督 佐藤信介 ...

ReadMore

-映画評, 評論
-

Copyright© Culture Club , 2023 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.