
「ポケモン」と侮ってスルーすると、「良質」な映画体験ができない。
それは勿体ない。という思いでお届けします!
今日は「ポケットモンスター みんなの物語」をご紹介!
この記事を読むと
- 「ポケモン映画」=「子供向け」その認識が間違えだと気づく。
- 練られた構造に驚く。
- サトシの置き所が、主人公ではなく「メンター」
それが、最良の結果をもたらしていることがわかる。
日本人なら誰もが知る「ポケモン」を今日は解説!
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目次
「ポケットモンスター みんなの物語」について
基本データ
- 公開 2018年
- 監督 矢嶋哲生
- 脚本 梅原英司/高羽彩
- 声の出演 松本梨香/大谷育江/芦田愛菜/川栄李奈/濱田岳 他
▼あらすじ▼
人々が風と共に暮らす街・フウラシティでは、1年に1度だけ開催される“風祭り”が行われていた。
祭りの最終日には伝説のポケモン・ルギアが現れて、人々はそこで恵みの風をもらう約束を、昔から交わしていたという。ポケモン初心者の女子高生、リサ。
嘘がやめられなくなってしまったホラ吹き男、カガチ。
自分に自信が持てない気弱な研究家、トリト。
ポケモンを毛嫌いする変わり者のお婆さん、ヒスイ。
森の中で一人佇む謎の少女、ラルゴ。偶然、風祭りに参加していたサトシとピカチュウは、5人の仲間たちと出会う。
れぞれが悩みを抱え、パートナーのポケモンと一歩を踏み出せない中、みんなが出会うことで、運命の歯車が動き出す・・・。
ルギアとの約束は守られるのか?
そして幻のポケモン・ゼラオラの正体とは?
今、人とポケモン、みんなの絆が奇跡を起こす――。
ポケモン映画プレイバック・ザ・ヒストリーより抜粋
ここから先は、ネタバレをしながらも
熱く批評していきますよ!
シリーズの問題点について

今作品が制作されるまで、いくつも作られた「ポケモン映画」それらは回を重ねるごとにある「問題点」を抱えていた。
まずは、それを見ていこうと思う。
大きな問題点とは?
マンネリ化
夏の風物詩としてもう定番になっているポケモンシリーズの劇場版。
今作品が公開された2018年の時点で、劇場版のポケモンシリーズは21作品が制作されていた。
しかし僕としては、残念ながら、近年の作品はどれも「一本調子」の作風。
「怪獣映画」的な作劇スタイルなど、見ていて退屈な作品が多かった。
個人的には、独自のコンセプトを確立して、高いクオリティを保っていたのは、「アドバンスジェネレーション編」の「七夜の願い星 ジラーチ」までだと思っている。
異論は認めるし、「ダイヤモンド・パール編」の「神々の三部作」とか試みとしては良かったと思ってるけどね
さらに、それに呼応するかのように興行収入の伸び悩んでいたのだ。
このように、残念ながらシリーズの劇場版はマンネリ化の状態にあったのである。
そのこともあり、今作品はいくつかの変更点がある。最も大きいのは20年シリーズの監督を務めてきた監督「湯山邦彦」から「矢嶋哲生」にバトンタッチがなされたという事だ。
そしてキャラデザの刷新。
スタッフ陣の大幅な入れ替えを行ったのである。
このような製作陣の大幅な刷新で何とか、シリーズにあった閉塞感を打ち破ろうとしたのだ。
幻/伝説のポケモンの使い方
前述したマンネリ化について、もう少しここで深掘りしようと思う。
ここまでのマンネリ化を招いた大きな原因は「幻・伝説のポケモン」(=以下ゲストポケモンと呼称)の描き方だ。
これはシリーズの初期は非常にうまく物語に落とし込めていた。

上手く扱えていた例
・ミュウツーは「作られた命」というテーマ。
・ルギアには「自然環境」というテーマ。
・エンテイには「幻の父の生き写し」というテーマ など
特にポケモン映画の初期の頃は、それぞれの「ゲストポケモン」が作品の中で背負うべきテーマを持っており、それを物語に組み込む技術が高かった。
物語と「ゲストポケモン」が密接に関係しており、それらが出てくる意義があった。
しかし「ゲストポケモン」はシリーズが続くに従い「人知を超えた怪物」のように描かれるようになる。
それと同時に物語も、「人知を超えた怪物」の戦いにより世界に危機が迫る。
それをサトシたちが食い止めるために奔走するという「怪獣映画的物語構成」が定番化するのだ。
シリーズの魅力であった「ゲストポケモン」と物語の調和という点は完全に消え失せてしまったのだ。
たしかにこれ、見せ場は派手にできて子供にはいいかもしれないけど、子供騙しにもなりがちになってしまうんだ!
このようにポケモン劇場版は、大きな壁に直面していたのだ。
それを今作は、打ち破る事に成功する。
具体的に、どのように打ち破ったのかを、これからは見ていこうと思う。
ポイント
✅「伝説のポケモン描写」「怪獣映画的作劇」など、マンネリ化していた「劇場版ポケモンシリーズ」
真っ当なクリエイティブ姿勢で挑んだ製作陣

サトシは主人公ではなく「メンター」という位置付け
ポケモンシリーズの主人公サトシ、ピカチュウ。
彼らの存在は日本人なら知らない者がいないほど、あまりにも有名だと言える。
当然今作でも彼らは登場するが、その扱いは「主人公」ではない。
「メンター」つまり「師匠」的立場で扱われている。
サトシは今作品では主人公として「何かしらの成長をする」という存在ではない。 完成された存在として登場する。
これが本作品最大の特徴だと言える。
伝説のポケモンという圧倒的格上の存在にも、同等に渡り合う風格すら兼ね備えているんだ
今作での彼は完全無欠のヒーローだ。
作品中で彼がほかの登場人物よりも一歩先を行っている描写が目立つ。
今作は、サトシが「背中で」ほかの人物の成長を促す、「メンター」役であるということを強く意識させられる描写が非常に多い。
では今作で成長するのは誰なのか?
それは。サトシと行動を共にする事で成長するキャラたちだ。
今作品はサトシに感化された5人のキャラが成長することで物語が進行し、最大の危機を乗り越えることができるという物語構成になっている。
そして、それこそがタイトルである「みんなの物語」という点にも直結しているのだ。
「背中で」というと2度描かれる、サトシがラルゴを助けるシーン。
その描き方に今作の特徴が現れている。
まさしくラルゴを背に、敵対者との間に割って入るシーンは「王道ヒーロー」的と言える。
今作ではサトシを成長する存在描かなかったのが、結果として、物語に深みを与える事になるのだ。
サトシ、ピカチュウという存在が広く知られた存在だからできた
長年シリーズが続いてきたポケモンならではのテクニックとも言えるだろうね
ポイント
✅サトシは「他のキャラクター」の成長を促す存在として描かれる。
✅今作の中心にはいる。だが「主人公」ではない。
成長するゲストキャラたち
では、今作品で成長するのは誰なのか?
それは5人のゲストキャラだ。
ラルゴ、リサ、カガチ、トリト、ヒスイ。
5人それぞれが抱えている悩み、弱み、葛藤。それと向き合い成長することを描く今作。
そして、これらの人物の「成長」こそが、最大の危機を乗り越えるために必要となる、物語展開。
そのため「成長」が「何故その危機を乗り越えることが出来たのか?」という点の回答にもなっている。
だからこそ今作品は「みんなの物語」なのだ。
「奇跡」とかそういう物では、なくきちんと問題解決に「成長」というワンロジック描かれている
これは非常にうまい作劇だね
そしてそれぞれが、成長するためのきっかけになる言葉を、すでに成長を遂げているサトシが発信しているのもポイントだ。
彼のいう「ポケモンパワー」
ポケモンと共に協力すればどんな困難にも打ち勝つことができるという、その言葉。
これはサトシとピカチュウがこれまでシリーズの主役として、それを体現する存在だと知られている、そういう前提だからこそ、メタ視点でも説得力が増す。
そういう言葉になっている。このバランス感覚が本当にお見事としか言いようがない。
そして今作のサトシが成長したキャラとしてみんなを引っ張る存在でないと、今回の「みんなの物語」は語れなかった。
今作品は「怪獣大決戦的」物語の見せ場。たしかに派手さはない。
物語の「懐の深さ」に重点を置いてる。
子供達は退屈だったかもしれないけど、いつか振り返って今作を見たときに得られる感想はまた違ったものになると思う。
ポイント
✅サトシが周りの成長を促す存在、それが成立するのは、「長い歴史」の積み上げというメタ視点の要因もある。
✅派手なシーンは少ないが、「物語の懐が深い」のが今作の特徴。
葛藤を乗り越え、最大の危機に勝利する
終盤訪れる危機的状況でそれぞれが「成長」を決意するシーンは最大の見所だと言える。
今作品で起こる最大の危機は人為的ではない、あくまで偶然の積み重なりで起きてしまった「災害」と向き合う。これも特徴だ。
毒ガスの蔓延。そして同時多発的に起こる大規模森林火災という危機。
これらを、それぞれのキャラが持つ「葛藤」を乗り越え「成長」し、この危機に打ち勝とうとする。
ラルゴ(ここはサトシが若干寄与はするんですけど)はゼラオラとの絆を深めるという点。
彼女の優しさがゼラオラのトラウマを消し、ともに火災の消火、救援活動に協力してくれるという結果につながる。
リサはイーブイとともに、ゲガのトラウマで走れないという葛藤を乗り越える。
それがルギアの力を借りる事に繋がる。
トリトは毒ガスを抑える抗体を作るために、自分が他人とうまく関われないという心の弱さを、ラッキーに背中を押され乗り越え、抗体を精製することになる。
ヒスイは過去「大切な存在」だったポケモン、ブルーを火災で失っている。
彼女はそんな悲しみを二度と味わいたくないと、ポケモンを遠ざけていた。
だが終盤ブルーが命を落として「何故鍵をヒスイに託したのか?」その理由に気づく。
そして、遠ざけていたポケモンと協力を決意。
託された鍵を使い、抗体を街に届けるために発電所を動かし、風の力で抗体をガスにして中和するために奮闘する。

カガチは嘘つきという自分を受け入れる。
嘘をつくことでしか生きれなくても、その生き方に付いてきてくれるウソッキーに背中を押される。
そして、たとえ蔑まれようと、自分の姪っ子を救うために立ち上がる。
それぞれの「成長」が最大の危機に打ち勝つ要因となるクライマックス、作劇として非常によくできている
これ以上ない素晴らしい展開だったと思うよ!
ポイント
✅それぞれの葛藤などを乗り越え、それが事態解決の糸口になる。
✅ポケモンシリーズの「作劇のマンネリ」を打ち破り、そして「物語に深み」を与えている。
ポケモン使いの巧みさ

ゲストポケモン使いが丁寧
先ほど指摘したように最近の作品では「ゲストポケモン」の扱いが「怪獣」でしかなくなった。という問題点があった。
今作品ではその点も上手く扱う事に成功している。
今作は二体の「ゲストポケモン」が物語に大きく関わってくる。
ゼラオラとルギアだ。
ゼラオラは人間の森林開発に恨みを募らせている存在だ。
しかしサトシやラルゴと触れ合い、人間は悪意の存在だけでないと知り、2人の良心に触れ心を開く。
そしてそれに応えて人間に協力をする事になる。
かたやルギアは自然の象徴のような存在だ。
ルギアは天候を操るという力を持つ。
終盤、彼が力を貸してくれるのは、リサが自身の弱さをイーブイという仲間とともに乗り越えたからだ。
繰り返しになるが、彼らが人間に協力してくれるのは、人間側の「成長」に彼らが応えてくれたからだ。
今作は、きちんと「成長」することに「意味」があるのだ。
このように「怪獣」のように理解不能な存在ではない「ゲストポケモン」
そしてこれまでならば、彼らの存在が「危機を招く」という展開になりがちだったのだが、今作で起こる最大の危機は、前述したが、偶発的要因が発端になっている。
今作は彼らを”危機を共に救う仲間”として描いているのが、特徴だと言える。
そして、何度も繰り返すけど、みんなの成長が彼らとの協力という結果に繋がるんだ!
ポイント
✅ゲストポケモンが協力してくれることに各キャラの「成長」というワンロジックがある。そして、彼らとの「協力」が「物語の危機」を解決するための鍵になる。
✅エピソードが上手く「有機的につながっている」
みんなとポケモンの物語

それぞれの思い出に目を向けた監督
今作のパンフレットで矢嶋監督はこのように語っている。
「おばあちゃんとポケモンのゲームをした思い出」から、今作を着想したと。
彼にとってポケモンはおばあちゃんと遊んだ大切な物なのだ。
だからこそ、みんなにそれぞれポケモンとの思い出があるはずと考え、そんな物語を描きたかったとのこと。
だからこそ、中心はあくまでゲストキャラ5人、そして彼らを支えるポケモンなのだ。
そして「みんなの物語」なのだ。
そしてこの監督の話を聞くと、終盤の展開にもより深みを感じてしまう。
市政の人々どうしの協力。
仲間のポケモンと協力し、危機を乗り越えるために行動を起こす、彼らも「みんな」だという事に気づかされるのだ。
つまりこの映画は登場人物全てが主人公なのだ。
そう考えるとサトシが中心にいない物語構成も納得が深まる。
これは何度も言うが「みんな」が主役なのだ。
監督の思いを聞くと、さらに「みんなの物語」というタイトルが、深みをまして聞こえてくるのだ。
ポイント
✅「みんなの物語」を描きたいという監督の思いに”やられた”
今作を振り返って
ざっくり一言解説
「みんなの物語」というタイトルがGOOD!
真面目に「オールタイムベスト級」なくらい今作を愛してます!!
まとめ
今作を見ながら「ポケモンの世界観の何が、好きなのか?」と考えた。
脳裏に浮かんだのは、各シリーズの序盤、博士が現れポケモンの説明をするお約束の場面。
「ポケモンと人間が助け合い生きている」という言葉。
初代のクチバシティでの工事中の方がポケモンと協力して作業している場面。
ルビー・サファイアの引越しを手伝うゴーリキー。
ポケモンと人間が助け合っている、そんな世界観が好きだった事に気づかされた。
僕がこの作品を好きなのは、まさにその要素で出来ているからだ。
それは、ポケモンと人間という関係だけでない。
現実問題として、どうして人間が一人で生きていけないか、どうして誰かと助け合わないといけないのか? という問いかけの答えにもなってると感じている。
この映画のラストに「オーキド博士」の、いつもは序盤に入る「語り」がくる展開もニクい。
そしてそれが本作がやはり「みんなの物語」であることを再認識させる作りになっている。
本当によく考えられた作品だ。
ちなみに今年の夏のポケモン映画はこの傑作を生み出した「矢嶋哲生」さんが手掛ける。
(冬に延期になりましたが)
だからこそ、今年の「ポケットモンスター ココ」には大注目するしかありませんね!
まとめ
- 「みんなの物語」であるということを、様々な要素で強調する。
- 最大の危機回避に「成長」というロジックがある、そのことで「物語に深み」が生まれている。
- 全ての「ポケモンファン」必見の作品!!
主題歌も名曲ですよ!!
と、いうわけで今日も読了お疲れ様でした
また次回お目にかかりましょう!