
今日は「長編ディズニーアニメーション」を公開順に評論していく「ディズニー総チェック」
いよいよ47作品目までやってきました。
ということで、今日は「ルイスと未来泥棒」について語っていきたいと思います。

こんな方におすすめ
- 今後の「ディズニー」の方針を宣言する作品。
- 「前へ進み続けよう」の意味。
- ウォルト・ディズニーの名言で新世代へ向かう
目次
「ルイスと未来泥棒」について
基本データ
基本データ
- 公開 2007年
- 監督 スティーヴン・J・アンダーソン
- 脚本 ミシェル・ボックナー
- 声の出演 ダニエル・ハンセン/アンジェラ・バセット
あらすじ
イマジネーションあふれる驚愕の新世界を旅するスリリングなアドベンチャー!
発明好きの少年ルイスが、家族を探し求めてタイムトラベルに出発する。
辿り着いた2037年は、歌って踊るカエルや眼鏡をかけた犬、しゃべる恐竜がいるのが当たり前のファンタジックな世界。
時空を超えた旅で、ルイスは未来の命運が自分の手にかかっていることを知る。
しかし、一人きりではとても守れそうにない。
自分自身を信じ、前に進み続けることを教えてくれた、風変わりなロビンソン一家の助けが必要なのだ。
ディズニープラスより引用
新時代の幕開け宣言

宣言に始まり、宣言に終わる
今作品は2006年に「ディズニー」が「PIXAR」を買収してから初めて劇場公開された作品である。
そのため「ジョン・ラセター」が初めて制作に介入。
公開を延期させ、全面的に作り直しを命じられ公開されたという経緯がある。
そのため今作は「自己言及」的な要素が非常に強く、今後の「ディズニー」の「やり方」を全方位的に「宣言」する構図の作品になっているのだ。
それは冒頭の「ルイス」のセリフからも明らかだ。
「世の中に改善出来ることがいっぱい」
作中では、いずれ未来で「発明王」となるルイスの人生を象徴する言葉になっているが、これは現実の「ディズニー」にも当てはまるのだ。
というのも、2000年代のディズニー作品は、結局ファンの心をつかめず、興行面では大苦戦。
「ディズニーオワコン」と囁かれて久しい時間を過ごしてきたのだ。
念の為に指摘しておくと、作品内容はどれも「野心的」「挑戦的」な面も非常に多く、こと「興行」としては失敗かもしれない。
だがそのどれも「有意義な失敗」だったとは指摘しておきたい。
兎にも角にも、冒頭で今作は「改善できることがいっぱい」と、まるで「ディズニー」のことを指すかのようなセリフを主人公に言わせるのだ。
さらに、作中でも「失敗から学べ」
「前へ進みつづけろ」
などなど、まるで2007年時点の「ディズニー」に、まるで言い聞かせているようなセリフが非常に多いのが特徴だと言える。
そして極めつけはラスト、ある人物の言葉で締めくくられる点だ。
過去は振り返らず
前へ進み続けよう私達は好奇心に満ちている
好奇心こそ、新しい世界への道標だ。
前へ進み続けよう。
ウォルト・ディズニー(ルイスと未来泥棒)
これこそ、まさに「ディズニー新時代宣言」だと言える。
「過去」の栄光・失敗。
それらを振り返らず、「前へ進み続けよう」
つまりこれは、今までの「ディズニーらしさ」とは決別しようという宣言なのだ。
思えば「2000年代ディズニー」は、1989年「リトル・マーメイド」から1999年「ターザン」までの「黄金期」の頃の輝きを取り戻せなかった。
そのために「黄金期」のような「ディズニー」を求めるファンからは、すっかりそっぽを向かれていた。
だからこそ「新しいディズニー像」を提示しようと、もがいていた時期なのだ。
だからこそ「過去は振り返らず」「前へ進み続けよう」という言葉には、大きな意味がある。
それは、「過去のディズニーらしさ」を追い求めるのではない。
そして、この2000年代の「失敗から学ぶ」
まさに「新しいディズニー」を今後作ろうという宣言だといえるのだ。
舞台は「未来」だけど、思いは「過去に」
今作には「ディズニー新時代宣言」の側面があると、先程指摘したとおりだが。
では、そろそろ肝心の作品内容について語っていこう。
まず総評としてだが、今作は非常にクオリティの高い作品だと言える。
物語としては、未来の世界で発明王になる「ルイス」
彼が世間で最初に評価されるキッカケになる発明品を狙う、未来から来た謎のヴィラン「山高帽の男」
そして、そんな「山高帽の男」を追いかけ、こちらも未来からやって来た「ウィルバー」
ルイスはそんな彼らと出会い、ひょんなことから「未来」へ向かうことになる。
そこで、「山高帽の男」の謎や、ルイスの使命や、ウィルバーの正体などが明らかになっていくという作りになっている。
いわば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のような感じだと言えば、一番わかり易いかもしれない。
ただ、今作の主人公「ルイス」は物語の序盤から終盤にかけて、彼は「未来」よりも「過去」を追い求めているのだ。
ちなみに、この構図「ルイス=ディズニー」が、「過去の栄光」を追い求めていると言い換え可能でもある。
ルイスは母親に孤児院の前に捨てられた。
何度も里親候補が彼を養子にしようと、孤児院を訪れるが、ルイスの「過集中」「周りが見えない」という個性が、悪い方向に働き、彼は自信を失ってしまう。
そこから、彼は「天才的な閃き」で「人間の記憶を映像化」する装置の開発を始める。
自分の母親を見つけて、「愛したもらいたい」という一心でだ。
このように、今作でのルイスの行動の原動力はあくまで「”過去”への執着」だといえる。
それは、彼が未来に行く時も顕著だ。
彼は「未来」に行ったにも関わらず、思いはずっと「過去」にある。
そして、今作のヴィランである「山高帽の男」
彼もまた「過去」に起きた出来事を引きずり続け、ルイスを恨み、そして過去を変えようと暗躍するのだ。
このように、今作品は舞台が「未来」ながら、主人公・ヴィランは、どちらも「過去」に思いを馳せていることが描かれるのだ。
このキャラクターの置かれた構図も、やはり現実の「ディズニー」を表しているのだ。
このように、序盤から中盤にかけて今作は、ずっと「過去」への思いに縛られたキャラクターの右往左往が描かれるのだ。
過去に縛られたからと言って・・・
今作はそんな過去に縛られた2人が、ある意味でその「縛り」から開放される物語だと言える。
特に「山高帽の男」とルイスが初めて対峙した際、男はルイスに自身の「過去の身の上話」をする。
そして、過去の失敗の原因はすべて「ルイスにある」「だからルイスの未来を破壊したい」とルイスに迫るのだ。

ちなみに、この「男」の正体は、実はルイスの孤児院のルームメイト「グーブー」だったのだ。
今作では、ルイスとグーブーはコインの裏表の存在として描かれていくことになる。
ルイスは、すっかり変わり果て「山高帽の男」となったグーブーに「つらい人生は自分のせいなんだよ、悪い方ばっかりに考えるからいけないんだ」
「済んだことは忘れて前へ進み続けないと」と諭すのだ。
だがグーブーは「どっちがいいか、自分を責めるか、お前を責めるか、おまえを責めるほうがいいもんねー」
とすべてをルイスのせいにした生きることを宣言するのだ。
ここで明確になるのは、ルイスは確かに「母に会いたい」
そのために「人間の記憶を映像化」させる装置を作った。
それは確かに、「過去への執着だ」
だが、彼はその「執念」の先で「未来」を、つまり「前を見る」
そんな道を見つけたのだ。
だが、グーブーはそうはなれなかった。
結局彼は、「過去への執着」を捨てられず、「未来」を見ようとはしなかった。
ずっと「後ろばかりみる」、そんな道を歩んだのだ。
このように今作は「過去の出来事」
それが「人生」を大きく変えたとしても、「不幸」になったとしても、いつまでもその事を「引きずってはならない」
むしろ、その事を「肯定」することも大切なのだ。
という強烈なメッセージが込められた作品だと言えるのだ。

アニメ「キングダム(3期)」の「7話」が過去にまつわる話だったのが、非常にタイムリーだった
前へ進み続けよう
今作は最終的にはグーブーの狙いは成就するのだが、それは「AI」の反乱の未来を到来させてしまう。
実はグーブーにこの計画を持ちかけたのは、未来のルイスが「危険だから」と発明を諦めた「AI搭載の便利帽子」だったのだ。
AIはグーブーを利用して未来を自分の思うがままに書き換え、人類に反乱。
未来はまるで「ディストピア」のように変化してしまうのだ。
そんな未来を打破して今作は幕をおろすのだ。
そして、ささやかではあるがルイスは、グーブーの過去を少しだけ修正してあげるという、これまたディズニーらしい「遺恨」の残らないラストをキチンと用意しているあたりも見事なものだ。
さらにルイスの精神的成長を最後に今作は用意している。
それがウィルバーと最後に、ルイスが捨てられる日に戻った際の行動だ。
実際に「母」が自分を捨てるシーンを目撃するが、彼は彼女を見ようとはしない。
ルイスにとっては、この「人生」こそ素晴らしいものだと気づいたからだ。
「過去」にどれほど縛られても仕方がない。
それよりも「自分」がどう生きるか?
それを決めるのは「自分」なのだ。
だからこそ「前へ進み続けよう」そのために、母に会うことをしない決断を彼はしたのだ。
ちなみに、この「過去」の出来事をすべて受け入れて、それで「今の自分がいる」
そのことを認め、「そんな自分が好きだ」、と肯定するのは「37セカンズ」のユマの決断と非常に近いと感じた。
そして前述した「ウォルト・ディズニー」の言葉で今作は締めくくられる。
これはルイスへのエールでもあり、我々へのメッセージ。
さらには「ディズニー」の「新時代宣言」という側面があるのだ。
このように今作は、凄まじい構図を持っている作品だったのだ。
これは、正直「鳥肌」しかない!!
まさに「総チェック冥利」に尽きると言わざるを得ない大発見が出来た作品だった。
今作を振り返って
ざっくり一言解説!!
張り巡らされた「意図」のある作品!!
観客への「メッセージ」でもあり、「ディズニー自身」への「メッセージ」でもある作品
まとめ
今作は非常に面白い構図の作品だ。
作中でルイスとグーブーという「過去に縛られた」キャラを出しつつ、ずっと縛られていてはいけない。
それよりも「未来」に目を向けよう。
このメッセージは、現代の混沌とする世界を生きる我々には金言だ。
だが、このメッセージは「ディズニー自身」にも向いているのも忘れてはいけない。
「過去の栄光・失敗」
それらに「縛られていてはいけない」
それよりも、「前へ進み続けよう」
そのために「後ろは振り返らない」「新しいディズニー像を作るんだ」という宣言なのだ。
そして、その「宣言」通り、「ディズニー」はここから「再興」への道を探り、その「夢」を叶えることになるのだが、それはもう少し後の話。
ここから「ディズニー総チェック」はそんな「再興への道のり」を見ていく段階にシフトしていくので、これからもお楽しみに。
そんな様々なメッセージが込められた「ルイスと未来泥棒」
非常に見応えのある、語りがいのある作品だったので、ぜひオススメです!!
まとめ
- 今作のメッセージは、もしかすると「ディズニー自身」へのものかも知れない。
- まさに「新時代宣言」にふさわしい作品だと言える。