
2022年の7月は個人的に見たい映画が多い!という、うれしい悲鳴なんですが、今回紹介する作品も、公開決定の一報を聞いてから見たかった作品。
『キングダム2 遥かなる大地へ』
こちらを鑑賞してきましたので、感想を述べていきたいと思います。
この作品のポイント
- 実写化を成功させるには?
- きちんと工夫のなされた作劇
- 邦画でこのハイクオリティは期待以上!
目次
『キングダム2 遥かなる大地へ』について
基本データ
基本データ
- 公開 2022年
- 監督 佐藤信介
- 脚本 黒岩勉/原泰久
- 原作 原泰久『キングダム』
- 出演者 山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈 ほか
あらすじ
時は紀元前。春秋戦国時代、中華・西方の国「秦」。
戦災孤児として育った信は、王弟のクーデターにより玉座を追われた若き王・嬴政(えいせい)に出会う。
天下の大将軍になると一緒に誓いながらも死別した幼馴染の漂(ひょう)とうり二つの国王に力を貸し、河了貂や山の王・楊端和と共に王宮内部に侵入する。
信は立ちはだかる強敵を打ち破り、みごと内乱を鎮圧。
玉座を奪還することに成功した。
しかし、これは途方もなき戦いの始まりに過ぎなかった。半年後、王宮に突如知らせが届く。隣国「魏」が国境を越え侵攻を開始した。
秦国は国王嬴政の号令の下、魏討伐のため決戦の地・蛇甘平原(だかんへいげん)に軍を起こす。歩兵として戦に向かうことになった信は、その道中、同郷の尾平と尾到と再会。
戦績もない信は、尾兄弟に加え、残り者の頼りない伍長・澤圭(たくけい)と、子どものような風貌に哀しい目をした羌瘣と名乗る人物と最弱の伍を組むことになってしまう。魏の総大将は、かつての秦の六大将軍に並ぶと噂される軍略に優れた戦の天才・呉慶将軍。
かたや秦の総大将は戦と酒に明け暮れる猪突猛進の豪将・藨公将軍。
信たちが戦場に着く頃には、有利とされる丘を魏軍に占拠され、すでに半数以上の歩兵が戦死している隊もあるなど戦況は最悪。
完全に後れを取った秦軍だったが、信が配属された隊を指揮する縛虎申(ばっこしん)は、無謀ともいえる突撃命令を下す。
公式サイトより引用
間違いなく、良質な実写化!

成功する実写化・失敗する実写化
昨今「あの人気漫画、アニメが実写化」というニュースが出る度に、SNSでは「やめてくれー」「改悪」などという声が出る。
しかもこれは「邦画」に多い。
しかし「マーベルコミック」の実写化である「MCU」作品の一覧が発表されると、世界中で称賛の声が上がり、公開を待ち侘びるツイートなどで、SNSは大盛り上がりをする。
【マーベル映画ドラマ情報】
— MCU FAN LIFE【MARVELブログ】TK (@MCUFANLIFE) July 24, 2022
✅今回のSDCCで発表されたMCU『フェイズ5』『フェイズ6』ラインナップまとめ🗓 pic.twitter.com/AL39glYoud
単純にこれらを比較することは出来ないが、理論的には同じ「漫画・アニメ」の「実写化」であることには変わりないが、なぜ両者にこのような大きな反応の違いが生まれるのか?
それは間違いなく「MCU」が「映画としての「クオリティ」が高いからだ。
邦画の実写化と聞くと、我々はどうしても様々な作品を脳裏に思い浮かべる。
『デビルマン』『宇宙戦艦YAMATO』『BLEACH』『進撃の巨人』『鋼の錬金術師』などなど。
まだまだ列挙出来そうだが、様々な駄作・珍作な実写化が作られてきたという歴史があるのだ。
もちろん実写化して大成功している作品も、もちろんある。
当ブログで扱った漫画原作を実写化して、秀逸な作品として『殺さない彼と死なない彼女』、『思い、思われ、ふり、ふられ』
評論はしていないが『ちはやふる』三部作、『バクマン』なんかも良かった。
などなど、漫画・アニメの実写化が全て「駄作」になる訳では当然ないし、「良質な作品」になることももちろんある。
しかし、それでも漫画・アニメの実写化は「駄作」になる可能性が極めて高いと個人的には考えている。
さて、それはなぜか?
大抵の場合、そもそも映像がしょぼい、キャストが合ってない、そもそも日本人キャストでやるのが無謀などなど、ダメになる理由は多い。
しかし僕が思うに「実写化」がダメになる理由はこれではないと考えている。
それは原作・アニメの人気エピソードをそのまま「映像化」しているというのが、失敗の大きな原因ではないのか? ということだ。
つまり、それらのエピソードをそのまま実写に置き換えてしまう、そうなると観客はむしろ「原作・アニメ」との違いに目がいってしまい、結果それと比較して「酷評」してしまうというわけだ。
先ほど僕があげた「成功」していると考える作品は、どれも「原作」からどの部分を抽出して、それを再解釈して描いている。
そして、どの部分が「大切」かをきちんと咀嚼して、必要があればストーリーを再構成して描いている。
だから「良質」な実写になるのだ。
考えれば「当たり前」のことだが、これが出来ていない「実写化」があまりにも多い。
さて、僕なりに「成功」「失敗」のパターンを分析したが、ではこの『キングダム』はどうだったのか?
この点について、これから深掘りしていきたいと思う。
ポイント
- 【成功】きちんと、原作からどの要素を抜き取るのか咀嚼しているもの
- 【失敗】漫画・アニメをそのまま「実写」に置き換えるもの
いい意味で、期待を裏切った「良質な前作」
さて今作『キングダム2 遥かなる大地へ』は2019年に公開された『キングダム』の続編だ。
原作はヤングジャンプで現在も連載されていて、日本でもトップクラスの人気を誇る作品だ。
当時、この作品が「実写化」されるとうことで、やはりSNS等では「大丈夫か?」という声が大きかった。
かく言う自分もそうだ。
そもそも作品が古代中国の「春秋戦国時代」を舞台にしており、登場人物も後の始皇帝となる「嬴政」
天下の大将軍を目指す「信」の活躍を描く、スケールの大きな歴史作品であり、戦乱記だ。
メモ
春秋戦国時代とは?
「戦国七雄」(秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓)と呼ばれる国家が「中華統一」を目指し覇権争いをした時代のことを指す。(紀元前770年から、紀元前221年までの約550年間を指す)
最終的には「嬴政=始皇帝」率いる「秦」が中華統一を果たす。
それを前作では邦画とては異例のスケール感と予算を組んで制作・公開。
方々から「絶賛」される堂々の出来栄えとなった。
ちなみに前作が「邦画平均予算(約3•5億円)の5倍」をかけており、これは邦画では異例の予算だといえる。
そのおかげか、確かに「ハリウッド」などと比べると「弱い」部分もあったが、それでも堂々の出来栄えだったし、クオリティもかなりの仕上がりになっていた。
さらに原作の要素を再解釈し直し、手直しなども行われており、きちんと「考えられて制作」されらことが一目瞭然の出来栄えであった。
と言うことで、前作『キングダム』は、漫画・アニメの実写化としては、かなりのハイクオリティの出来栄えで、多くの観客が鑑賞後に「高く評価」
まさに「手のひら返し」と言わざるを得ない、嬉しい誤算が満載の映画だったのだ。
そんな前作から今作はどうなのか? と言う話をこれからしていこう。
ポイント
- 前作は「期待」以上の出来!
- いい意味で「裏切られた」作品!
三組の兄弟(姉妹)を描く意味とは?
今作最大の特徴は「蛇甘平原(だかんへいげん)」の戦いを中心に描く、全編がこの「戦争」を描いた作品だと言うことだ。
その中で信の初陣が描かれ、後に「飛信隊」という部隊を率いることになるのだが、その仲間との出会いなども描かれていく。
中でも後に副将となる羌瘣との関係性が深く描かれる。
原作では基本的に戦闘シーンのみで、そこで信が勇猛果敢さをみせ、周囲の人間を巻き込み戦果を上げると言うエピソードだが、今作はそこに羌瘣の過去編を並列して描く。
見ようによっては、今作は、羌瘣の映画だったとも言える。
特に今作で「なぜ羌瘣が仲間になったのか?」
これの理由づけが非常に丁寧に描かれているのも特徴だ。
それが「三組の兄弟(姉妹)」だ。
彼女は姉「羌象」を仲間に殺され、その復讐のため中華を旅している。
「復讐」のために生きていると自覚した存在だ。
実はこの境遇は前作の「信」と重なる。
彼も共に奴隷として育った義兄弟のような存在「漂」を政治的陰謀で殺され、その恨みを晴らそうとしていた。
しかし、そうではない「道」を見つけて、「嬴政」の夢を共に追いかける決断をする。
そのために「天下の大諸軍」より一層強く志す。
信は復讐よりも尊いものを見つけた存在だ。
彼にとって羌瘣はかつての自分だと言うことだ。
そんな彼女に「復讐」という「悲しみ」を背負い生きることの虚しさを解く。
そして、今作はさらにもう一つの「兄弟」を描く。
尾平と尾到たち、「尾兄弟」だ。
山中で魏軍に包囲され絶体絶命の危機で兄弟は「自分を死んでもいいから、あいつを守ってくれ」と叫ぶ。
どうして自分は「生かされたのか?」その意味がわからなかった羌瘣。
だが尾兄弟が死地で、自分を犠牲にしても、互いを守ろうとする姿を見て、羌瘣が「姉の真意」を知るシーンが今作描かれている。
つまり三つの兄弟関係を通じて、羌瘣が「生きる」意味の尊さ、そして「生かされた意味」を学ぶという構図になっている。
そして、自分のために生きようとしていた彼女は、仲間を守ろうとする。
ここの説得力が今作はかなり強く描かれている。
ちなみに、そうか考えると「Mr.Children」の歌う主題歌「生きろ」は羌象から羌瘣への歌とも言える
このように原作よりも深く三組の兄弟(姉妹)のエピソードを盛り込むことで、羌瘣の存在を魅力的に描いた今作。
「戦闘」の面白さで盛り上げた原作に対して、今作は人間ドラマ的なアレンジを今作はきちんと加えて、ドラマ部分の厚みを生み出しているのだ。

これは脚本に原作者原泰久が加わり、1年間のブラッシュアップの賜物と言える。
ポイント
- 「戦闘」のみという単調な原作
- そこに三組の兄弟(姉妹)の「ドラマ」を描くことで厚みを持たせているアレンジが素晴らしい
劇場で鑑賞すべき!
さて、先ほど言った通り今作は全編が「戦場」が舞台になっている。
これも鑑賞し驚いたが、この人数のスケール感、「蛇甘平原」の面積的スケール感など、きちんと目の前に存在するんだ。
そんな実在感が今作最大の見どころだ。
今回は制作がコロナ禍で中国でロケが行えない中、現地のスタッフに指示をしてエキストラシーンをなどを撮影。
国内でメインキャストの撮影をして、それを編集・CGなどで繋げると言うかなりの手間と時間をかけて制作された。
この人数・空間的な「実在感」はまさに「妥協」しないものづくりの姿勢の賜物だと言うことだ。
つまり、作り手はこの「古代中国」と言う歴史的、「広大な国土」という空間的スケールの再現に力を注いだと言うわけだ。
この努力はぜひ劇場で確認していただきたい。
さらに戦闘シーンのアクション部分もかなり力が入れられている。
原作特有のダイナミックな、ともすれば「そんなアホな」と言える描写も実写化するにあたり、「アホっぽく見えすぎない」でも「原作のダイナミック」さを失わないバランスできちんと描けている。
ちなみに原作でも人気の王騎将軍。
前作でも大沢たかお氏の怪演で魅力たっぷりに描かれていたが、今作では前作以上の怪演を見せており、出番は少ないながら登場すると劇場がざわつく。
今回も素晴らしい演技をしていた。
そのバランスがリアルとフィクションのちょうどいい具合を突いており、これが今作のバランス感の良さを体現しているといえる。
そしてある種、秀逸なのは「戦争の全体像」があまり詳細に描かれないことだ。
つまり「俯瞰」した視線からの描写がないのだ。
例えば今作で重要になる「高台」に布陣するメリット、そこを奪い返す意義、その作戦全体の進行具合。
今作の「秦将軍」藨公が、そこを重視するキャラではないと言うことでもあるが、今作は「初陣」である信の視点で描かれる作品だ。
つまり彼にとり「右も左もわからない」戦場というのが、彼の周りの見えなさ、つまり物事を俯瞰できない「未熟さ」として描かれるのだ。
事実どんどん信の立場が上になるにつれて「作品」の面白さは「戦術」的な部分にも広がっていく。
しかしこの時点での信は「視野の狭さ」があり、おそらく映像的スケールを誤魔化すという意味でも、この「狭さ」というのを有効に描いていた印象を受けた。
そういう点も映像化に際して工夫されていたのも、素晴らしい点ではないだろうか?
ということで工夫が至る所に見える、僕は好感持てる作品になったと感じました。
皆さんもぜひ劇場で鑑賞してみてください!
ポイント
- キャラや戦闘描写など、リアルとフィクションのちょうどいい塩梅を狙っているのが良い
- 視点が狭いことが、信の未熟さとして描けている
今作を振り返って
ざっくり一言解説
邦画も捨てたもんじゃない!
きちんと考えて作れば高レベルな作品は作れる!
まとめ
今作は確かに若干粗いところもあるが、全体的にスケール感があり、工夫された見せ方。
キャラクター描写など、安易な漫画・アニメの実写化とは違い、本気で作られたことが十二分に伝わる作品だった。
やはり漫画を映像化する際に、限られた時間で「何を見せるのか?」「どのように見せるのか?」
それを十分に考えた作品は、やはり面白いということだ。
さらに工夫という点を見ると、三組の「兄弟=姉妹」を描くことで、羌瘣という人物にフォーカス。
原作が「戦闘のみ」というドラマの弱さをカバーしている工夫も個人的には素晴らしい改変だったと思う。
さらにスケール感もしっかりあり、コロナ禍で中国撮影ができない中、現地スタッフ・エキストラをオンラインで指示して撮影するなど、撮影の工夫もあり、映画に広がりを持たせているのも素晴らしい点だ。
今後この作品のクオリティを目指すべきという、いい手本になれば「邦画」のアクション大作映画も発展するのではないだろうか?
まとめ
- 工夫されている、だから面白い!
- 今後のアクション映画の見本になるべき映画!