
今回は、漫画家・原泰久による、累計発行部数9,500万部を超える同名タイトルの人気漫画を実力派キャストで実写化した「キングダム」シリーズ。
その、シリーズ第3弾となる最新作『キングダム 運命の炎』
こちらを鑑賞してきたので、感想を語っていきたいと思います。
目次
『キングダム 運命の炎』について
作品について
基本データ
- 公開 2023年
- 監督 佐藤信介
- 脚本 黒岩勉/原泰久
- 原作 原泰久『キングダム』
- 出演者 山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/大沢たかお ほか
あらすじ
500年に渡り、七つの国が争い続ける中国春秋戦国時代。
戦災孤児として育った信は、亡き親友とそっくりな秦の国王・嬴政)と出会う。
運命に導かれるように若き王とともに中華統一を目指すことになった信は、「天下の大将軍になる」と言う夢に向けて突き進んでいたが、そんな彼らを脅威が襲う。秦国に積年の恨みを抱く隣国・趙の大軍勢が、突如、秦への侵略を開始。
残忍な趙軍に対抗すべく、嬴政は、長らく戦いから離れていた伝説の大将軍・王騎を総大将に任命。決戦の地は、馬陽。
これは奇しくも王騎とって因縁の地だった……。出撃を前に、王騎から王としての覚悟を問われた嬴政が明かしたのは、かつての趙の人質として深い闇の中にいた自分に、光をもたらしてくれた恩人・紫夏との記憶。
その壮絶な過去を知り、信は想いを新たに戦地に向かう。100人の兵士を率いる隊長になった信に、王騎は「飛信隊」と言う名を授け、彼らに2万の軍政を率いる敵将を討てと言う無謀な特殊任務を言い渡す。
失敗は許されない。
秦国滅亡の危機を救うため、立ち上がれ飛信隊!運命に導かれ、時はきた。キングダム史上最大の戦いが、今、始まる……。
公式サイトより引用
何度もいうが、ここまで出来ているのは「凄い!」
当ブログで、昨年の7月に『キングダム 遙かなる大地へ』を評した際にも語ったが、この作品が凄いところは「スケールが大きく」そして「しょぼく見えない」という点だ。
多くの日本映画界でこれまである意味で「タブー視」されてきたジャンルがある、それは「人気漫画の実写化」というチャレンジだ。
これまで多くの人気漫画が実写化されてきたが、多くはいわゆる「爆死」という状態になり、ろくなことにならないと、言われてきた。
なんなら、逆説的に漫画の評価も落ちてしまうなんてこともある。
最初はこの『キングダム(2019年)』を実写化するという試みも、「爆死」するだろうと思われていた。
しかも原作は古代中国の戦記もの。
どう考えても勝算などないと思われていた。
しかし蓋を開けてみれば、豪華キャストに、壮大な古代中国の世界観。
そんじょそこらの映画を超越するクオリティの作品が公開されていたのだ。
個人的に関心したのは「衣装」だ。
日本の漫画を実写化の際、大抵が妙に衣装が綺麗だったり、そもそもしょぼかったり。
本当にこの人物が、この服を着ているのか?
そうした部分が薄ぼんやりとしてしまい、物語に入り込めないということも多くあった。
というか、そもそも「そのクオリティ」にこだわれない作り手が考えるリアリティなど、たかだか知れているとも言えるのだ。
しかし、この『キングダム』一作目はきちんと「服の汚れ」など、細部をきちんと作り込んでいた。
こうした小さな部分の積み重ねで、映画のクオリティ自体も非常に高いものになっていたのだ。
そんな一作目から3年後に公開された『キングダム 遙かなる大地へ(2022年)』
先ほど原作は「戦記もの」という言い方をしたが、とはいえ一作目は「秦国」の内乱の話であった。
しかし、この二作目からはいよいよ「中華統一」を「秦国」が目指す話になっており、敵国との「戦」が話のメインになってくる。(蛇甘平原の戦い)
そのため、クオリティの面などで心配がされた。
確かにコロナ禍という事情もあり中国ロケなどが行えないなどという事情もありつつ、一作目と比べれば粗い部分も目立つ作品であったことは認めざるを得ない。
しかしオンラインで中国のロケ隊、エキストラ陣に指示をしながら撮影をしているなど、この時点でできる限りの努力・工夫をして補い撮影されたこの作品。
そんな必死の努力もあり、確かに弱い部分はあったものの、それでもクオリティの高さは目を奪われるものがあったのも事実だ。
正直、ここまで納得できるクオリティの作品を連続して作る製作陣には、邦画の未来を託せるとまで、個人的には思ってもいる。
それほど、よくできたシリーズだということだ。
静かな前半
さて、とはいえ『キングダム』という物語は「戦乱もの」だ。
基本的には「戦場」での勝利、つまり「秦」の勝利が物語を進める鍵になる。
つまり「戦場」でのドラマは描きやすいが、「静かなドラマ」は描きにくい作品ではある。
前作が基本的に「戦場」のみでの物語展開で、もちろん原作の物語展開がそうなのだから仕方ないが、今作も同じことをすれば、ともすれば飽きられる可能性も大いにある。
そのため今回は秦の王、政(のちの始皇帝)の過去編を最初に組み込むことにしている。
この政の過去編は微妙に原作と置き所が変わっているのだが、ここで「約束」というキーワードが出てくる。
これは政を助け出した紫夏の死に際に交わした約束だ。
実は王騎の過去にも「約束」というのが原作では描かれており、これはおそらく今後描かれるのだが、共通の「キーワード」を設定しておくことで、なぜ引退をしていた男が再び戦地に立つのか?
という理由づけを原作以上に強化しているのだ。
映画シリーズとしては「戦場」でのみ物語が展開されることを防ぐため、物語上では王騎復帰の理由をより強くする。
現実的な視点を言えば、ここからどんどん出番の減る吉沢亮演じる政の出番を増やすため。
これらは良い改変だったと言える。
しかも何が素晴らしいのかというと、このエピソードは本来もう少し情調な展開にすることも出来たはずだが、必要以上に盛り上げはせずに進めた点だ。
このエピソードがもう少し時間の割合が長いと、一本の映画としては全体的に間延びする印象を受ける。
だが、そうならない絶妙な時間で描いているのだ。
このシリーズ最大の功労者「大沢たかお」
そんな「静かな」前半。
後半は一気に「戦場」を描く「動きのある」ものになっている。
その中でも一際目立つのは、主役の信(山崎賢人)ではない。
やはり、ここまでのシリーズで異色の存在感を放ってきた王騎将軍(大沢たかお)だろう。
【つよい】『キングダム』王騎役・大沢たかお、肉体改造しすぎて衣装を4回作り直しにhttps://t.co/5rEA4PogHM
— ライブドアニュース (@livedoornews) August 3, 2023
前2作では過酷なトレーニングで20キロ近く増量。体にぴったり合わせた衣装が完成する頃には、さらに体が大きくなり、合わなくなっていたという。(記事内に映画のネタバレが含まれます) pic.twitter.com/xOnRsirBrf
原作でも序盤の活躍もあり、いまだに『キングダム』を代表する名キャラクターである王騎。
中華最強と呼ばれ、そして異質な見た目。
しかも話し言葉は「おねぇ口調」
一体どうすれば、このキャラクターを実写化して魅力的に見せることなどできるのか?
シリーズ一作目から、最大の課題であった。
しかし演じた大沢たかおが「肉体改造」そして「キャラクターをへの理解」が非常に深く、映画を見た者全員に強烈なインパクトを残す演技で見事に課題を払拭。
課題と思われていた部分を、魅力へと変化させたのだ。
ちなみにこの王騎というキャラクターを見ていると、とは言え一作目の段階では、十分異質だがそれでもある程度抑えめの演技トーンだった。
しかし前作、今作と回を重ねるごとに「ンフフフ」という原作でも特徴のある笑い方を強くしているなど、実は演技のトーンが変化していることが窺える。
やはり一作目からここまで「クセの強さ」を見せると違和感が出たかも知れないが、回を重ねて観客を慣れさせて、演技を原作の描写に近づけていくなど、演技レベルの工夫がされているのも特徴だ。
そんな王騎は、この作品、そして次回作の実質の主役と言っても過言ではない。
主人公、信に特別な任務を与え、彼の成長に深く関わっていくキャラクターなのだ。
先ほど政の過去編を本来の場所とは変えて、王騎との会話で回想をしたと言ったが、ここで元々政は「趙国」の人質だったことが明らかになる。
実は王騎も「趙」とは並々ならぬ因縁がある。
そして、今回はその「趙」が「秦」に大軍を率いて侵略してくるのだ。
この時点で信には「趙」との因縁はない。
今作と次作を使い、そこに因縁を作ることでようやく「信」が本当の主人公になるという流れになっている。
なので、前作と今作で信は「流れに身を任せている」感がある(そもそも末端の兵士なので当たり前だが)。
それが彼を主人公にすると、ドラマが描きにくい要因でもあるのだが、それをクリアするために王騎と政を軸にする作劇で今作は正解だったと言える。
そしてその信独り立ちまでを圧倒的な演技でカバーする大沢たかおの存在感もまたこの作品最大の見どころだと言える。
ちなみに大沢たかおは2016年から約2年間俳優としての活動をしてこなかった。
一種の燃え尽き症候群のような状態だった。
しかし、2019年公開の『キングダム』で王騎を演じるのだが、この役に今までにない自分を見出せるのでは?
という期待で、燃え尽き症候群から立ち直ったのだ。
元々『JIN』などのヒット作に出ていたが、そこでは優しくかっこいいを体現していた。
しかし今シリーズに出演するにあたり筋トレ・高カロリーの食事で20kgの増量をしたのは有名なエピソードだが、今作はそこからさらに肉体を改造して役作りに励んだ。
ある意味でこの努力が、この作品最大の見どころ「王騎」の魅力を引き上げている。
そして、やはり圧倒的な説得力を作品全体に与えているのだとも言える。
まさに見事というほかない。
まとめ
ということで、「やはり侮れない」「邦画でも類を見ないスケール感」は今回も健在。
期待をきちんと超えてくる作劇に仕上がっていた。
特に「馬陽の戦い」序盤の蒙武の突撃からは映画全体のテンションも高く、非常に見応えのある展開で楽しめた。
ある意味で次作を通じて描かれる「馬陽の戦い」を経て信が成長し、真の意味で主人公になっていく、その前段階として政・王騎を中心にする作劇は改変の方法としても、うまいと感じた。
次作はいよいよ「趙」のあのキャラたちが躍動するので、それを楽しみに待ちたいと思う。
ぜひ劇場で見ることをおすすめしたい。