雑記

【コラム】「星の子」を「エドワード・ファーロング」で読み解く

2020年8月2日

作品紹介

「星の子」今村夏子

あらすじ

主人公・林ちひろは中学3年生。

出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、

両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、

その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。

第39回 野間文芸新人賞受賞作。

Amazon作品紹介より抜粋

10月には劇場版も公開予定です

注意

決定的ネタバレは避けますが、結末に関わる部分に触れております。

 

なぜ、初恋の相手が「エドワード・ファーロング」なのか?

自分のいる境遇がおかしい。
「信じている」ものがおかしい。

 

外にいる人間から見ると、明らかにおかしいことを「信じている」
そう思われていようと、そのことを「信じている人間」は、そういう外部の声を受け止めることができるのだろうか?

その境遇、運命から抜け出すことが幸せなのだろうか?

 

今作は、カルト教団にどっぷりつかった両親と娘の心情を切り取った作品だ。
通常なら、そこからの脱却を目指す話になりそうな物語題材だ。

 

だが「星の子」はそうはいかない。

 

主人公の「ちひろ」は幼少期病弱だったが、あるカルト教団に勧められた「水」を使うことで、健康を取り戻し、両親はいよいよ、その教えにどっぷりつかってしまう。

 

この物語では、その教団が行っているであろう、詐欺、監禁など、危険な香りをそこかしこに醸し出す。
ちひろの中学校の友人など、外部の人間は、明らかに「教団を危険視」している。

物語が進む逸れて、両親は見窄らしくなり、引っ越すたびに家が小さくなる。
明らかに搾取されているとしか思えない状況になっている。

そして。両親の行う、儀式?のようなものを外部の人間が見たときの反応。
「不審者だ」と両親が言われる状況。

 

ちひろの気持ちを慮ると、心臓がキュッと捕まれる感覚におちいってしまう。
外から見た、ちひろのいる環境の異常さを指摘する、外部の声。
それらは残酷に彼女の心に突き刺さる。
それを今作は、容赦無く描いている。

 

明らかに、外部の目から見れば異常な集会などを行なっている教団。
そんな状況でも教団に居場所があり、それを信じているのが、ちひろたち一家だ。
ちひろ達は子供の頃から教団のイベントに参加し、そこに知人がいる。

 

そんな彼女は、やはり教団と深く関わる人生を選んでしまっているのだ。

 

作品を通じて、何かがおかしい「かも」その気配は少しずつ感じとるちひろ。
だが、それでも、それが当たり前の状態で生きているちひろは、そこから抜け出すことができない。

 

彼女にとってカルト教団から抜けることが幸せなことなのか?
真実を、わかりかけている彼女が、そのことを受け止めることが「いい」ことなのか?

大人になるにつれて、多くのことを学んだ、そして、これから学ぶちひろがどのような決断をするのか?
そして、その決断が、彼女の幸せになるのか?

「流れ星」がちひろには見えて、両親には見えない。
その齟齬を受けた彼女が、これからどう歩むのか?

その疑問を投げかけ本作は幕を閉じた。

 

 

 

実は、この投げかけの答えに対応する要素がこの作品には隠されている。
この作品で、ちひろが初恋をする相手「エドワード・ファーロング」だ。
厳密に言えば、彼が「ターミネーター2」で演じた「ジョン・コナー」なのだが。

 

エドワード・ファーロングが演じるジョン・コナーは「ターミネーター2」でサラ・コナーの息子として登場する。
ジョンは来る未来、人類とスカイネットという人工知能の戦争で、人類側のリーダーになることが運命づけられている。

 

前作にあたる「ターミネーター」では、スカイネットがジョンが生まれる前にサラを殺して、彼の生まれる運命をなき事にしようと、未来から殺人マシン「ターミネーター」(シュワルツネガー)を送り込む。
未来の人間側も、カイルを送り込み殺人マシンとの激闘の末なんとかスカイネットの企みを挫くことに成功する。

そして、ジョンはこの世に生を受ける。

 

「ターミネーター2」でも同じように、スカイネットは「ターミネーター」(液体型)を送り込み、彼を殺害しようとする。
未来の人類は、ジョンの味方になるように、プログラミングした「ターミネーター」(シュワルツネガー)に彼を守らせる。
そして見事に彼は生き延び、そして、スカイネットが生まれる未来を書き換える事に成功するのだ。

 

考えてほしいのだが、ジョンはこれで幸せなのだろうか?
彼は、実は人類のリーダーとして、輝かしい、なんなら歴史に名を残すチャンスを不意にしたのだ。

 

未来の殺人兵器に追われる、そして人類のリーダーになる。
ジョンは、我々から見れば、重すぎる運命を背負っているようにも思えるし、そんな境遇は不運だと思ってしまう。

 

しかし、彼にとっては「人類のリーダー」になる未来こそ、我々から見れば不運な運命の中にいる方が幸せなのではないか?

 

それを描いたのが「ターミネーター3」だ。
ジョンはすっかりふぬけになり、どうしようもないダメ人間に成り果ててしまっている。
このままでは、ロクな生き方をしない。そんな予感すらさせる。

(ちなみにジョンの演者も変わり「ニック・スタール」が演じるが、エドワード・ファーロングと比べると圧倒的に「華がない」)

この人生の方が、彼にとっては不本意な人生なのではないか?

 

その後、「ターミネーター4」でとはいえ、人類の救世主になる、その運命のレールに再び乗ったジョン。
ご丁寧に演者を「クリスチャン・ベール」に変更して、再度「華」を与えている。

 

このように、外から見れば不運な環境と思しき、そんな境遇から抜け出す、それが結果として「幸福」になるのか?
そのことを描いている「ターミネータ」という作品。

作者は、ここまでを見越して「エドワード・ファーロング」を、ちひろの初恋相手にしたのか?
確認する手立てはないので、この記事を作者が目にしてくれることを願う。

 

しかし、共通していることは、外部から見たら「不幸」はっきり「不幸」では? と思える境遇にいることこそ、本当の「幸せ」ということもありえるのだ。という点だ。

 

そして、なにを「幸せ」と信じるのか?
それは個人、各々が考えることだ。
にも関わらず自分たちの考えの及ばない「幸せ」を信じている者に対して、我々は「嫌悪感」を抱くのだ。

事実、ちひろは、「水」のおかげで健康を取り戻しているのだ。
その「水」がいくらインチキだと、その可能性を描いていたとしても、その点は忘れてはならないし、否定できないのだ。

 

この作品は、教団にいる者たちの「信じる」対象を「否定」しようとはしない。
登場人物の境遇を「不幸」だと断言しない。

そこに「いる者」それを「信じてしまう者」
そうした人々に「何かを押し付ける」ことをしようとはしない。

 

ある意味で一歩引いた視点で描かれており、そこに「答え」を出すのは、あくまで、ちひろなのだ。

 

この登場人物の「信じる」対象との距離感。
その距離感が、作者の「優しさ」であり、同時に「厳しさ」でもあるのだ。

原作は非常に「いい」作品だと思います、「劇場版」も期待できるので、みなさんの「鑑賞予定」に付け加えてくださいね!!

映画版については、こちらから!!

 

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