映画評 評論

【映画記事】「星の子」−優しさと、厳しさ−【原作と比較】

2020年10月11日

 

今日は、原作小説も読破して、公開を待ち望んでいた作品を観てきました。

と、いうことで「星の子」を見て参りましたので、その感想を語っていきたいと思います。

 

 

この作品のポイント

  • 実写だからこそ「不気味」さが増す。
  • 「エドワード・ファーロング」はやはり重要。
  • この距離感は「優しさ」でもあり「厳しさ」でもある。

「星の子」について

基本データ

基本データ

  • 公開 2020年
  • 監督・脚本 大森立嗣
  • 原作 今村夏子『星の子』
  • 出演者 芦田愛菜/岡田将生/大友康平/高良健吾/黒木華 ほか

 

あらすじ

大好きなお父さんとお母さんから愛情たっぷりに育てられたちひろだが、その両親は、病弱だった幼少期のちひろを治した“あやしい宗教”を深く信じていた。

中学3年になったちひろは、一目惚れした新任のイケメン先生に、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。

そして、彼女の心を大きく揺さぶる事件が起きるー。

公式サイトより抜粋

他人が理解できないことを「信じる」家族の物語

二つの感情の間を揺れ動かされる

 

この作品については、過去に「書評」という形で、一度論じているので、そこと重複する点も多々あるかもです・・・。

でも重要なので繰り返しになるので、ご了承を。

 

 

さて、早速繰り返しになるが、この作品は「信じる」ということをテーマの作品だ。

 

主人公の「林ちひろ」は、赤ん坊の頃、体が弱かった。
そのことに悩んだ両親が知人に相談すると「金星のめぐみ」という、「特殊な祈祷をされた水」を勧められる。
それを、藁にもすがる思いで「ちひろ」に使うと、みるみる体調が回復したのだ。

そのことで両親は、その水を販売する「怪しい宗教」を「信仰」することになるのだ。

そして当然のように家族全員が、その宗教を「信じる」ことになった。

 

日本では、「日本国憲法第二十条」「信教の自由」は守られており、これ自体は何ら問題はない。

 

この「星の子」という作品の特徴として一番大きいものは、原作・映画版のどちらにおいても、「信仰」つまり「信じる」という行為そのものを、けして否定しようとはしないというスタンスだ。

そして、このスタンスは、物語の最後まで崩れることはない。

 

この作品は、周囲の人間が「信じていない」ものを、「信じている」
そんな家族の姿を描くことに終始している。

 

そして物語の進行とともに、我々は相反する感情を抱くのだ。

 

「宗教を信じていることで得る”幸福”」という感情。これはちひろたちに寄り添っていると言える。

同時に「その行為を他人が見ると”不気味”」という視点、これは我々のような「信じていない側」の視点だとも言える。
オブラートに包まずいうと、「気持ち悪さ」「嫌悪感」と言い切ってもいいだろう。

 

この作品を観ていて、その両極の感情に支配される。

 

 

ポイント

✅ちひろたちの目線から見えれば「信じること」が「幸福」になっている。

✅外部の目から見れば、彼らは「不幸」に見える。不気味にさえ見えてしまう。

映像化されたことで、強まる「不気味さ」

 

この作品は、最後まで「怪しい宗教」を信じるものたちを、決して「間違っている」と「否定」しようとしない。

一歩引いた視点で描かれる。

 

だが、実写化したことで、原作以上に「不気味さ」が強まっている面もある。

それが、周囲の人間がちひろたちの両親を見てしまうシーン。
そして、最後の集会の場面だ。

 

特に一つ目の場面は、この作品で大きなターニングポイントだ。
南先生、なべちゃん、新村くん。
3人に両親が濡れたタオルを頭において、瞑想しているところを見られてしまうシーンだ。

この場面、実際に映像にしている分、そのあまりにも「理解できない行為」
そのあり得なさがより強まるのだ。

ここが原作以上にずしりと刺さってしまう。
それは、何度も言うが、ちひろたちは、「信じることで幸せ」に生きているからだ。

 

編集長
第三者の視点で見ると、こいつら何やっているんだ!?
と確かに言いたくなってしまう

 

しかし、ちひろにとっては、これは普通のことだった。
そして大好きな両親が、思い切り「否定」される言葉を聞いてショックを受けてしまうのだ。

ただ、同時に内心薄々、ちひろもおかしいとは、心のどこかで思っていた。
だからこそ、よりその感情が「正しい」ということを、先生の「否定」によって、より強く感じて、ショックを受けたという面もある。

だが、何度も言うが、ちひろたちはそれでも、今まで幸せに生きてきた。
だからこそ、決して両親の元を離れようという決断は、しないのだ。

 

そして最後の集会のシーン。
ここも明らかに、「怪しい」としか思えないスピーチや交流会が描かれるのだが、それでもちひろにとっては、この「宗教」を信じているからこできた、友達と出会う。
一種の「合宿旅行」のような楽しさもあるのだ。

そしてこの「楽しさ」も実は映像化されることで、より際立っている。

バス移動の遠足感。
そして代表である海路さんの作る「焼きそば」の何と美味しそうなことか。


でも集会の場面では「明らかにヤバイ会合」が繰り広げられる。
このヤバさも、映像化されてより際立っている。

それで、またも相反する思いを抱いてしまう。

ここにいるのが「いい」のか「悪いのか」・・・。

 

ちなみに海路さんはこの宗教の若き幹部で、演じるのは高良健吾。
さらにもう一人の幹部、昇子さんを演じるのは黒木華。

このふたりの胡散臭い、でもなんか説得力ある感じは、登場時間から考えても異常なほど際立っている。

ちなみに彼らは、明らかに「ヤバイ手」を使って詐欺を働いたり、犯罪に手を染めてそうな描写も間接的にはされている。

 

 

ポイント

✅映像化されたことで、「不気味さ」「幸福さ」という場面が、より際立ってしまう。

「信じるか否か」はそれぞれが決める

 

結局この作品は、我々のような外部、それこそ南先生のような視点から見れば、ちひろたちの境遇は明らかに異常だ。

カルトにのめり込み、搾取され、どんどん両親はみすぼらしく、家も小さくなっていく。

 

それを見ていた、親戚の雄三おじさんは、「騙されてる」とはっきり脱会を迫った。
だが、それを林家は聞き入れることはしない。

ちひろの姉まーちゃんも、この異常性に気づいていた。
一家全員で最初は「脱会」をしたがっていたのだろう。

だからこそ雄三おじさんに協力し、「金星のめぐみ」の中身を全て「水道水」にすり替えたのだ。

嬉々として両親は「金星のめぐみ」の効能を語っていたにもかかわらず、中身のすり替えには気づかない。
これで、「金星のめぐみ」に何も効果がないことが証明された。

一家騒然の事態に、雄三おじさんへの怒りをあらわにする両親。
どうしようもないパニック状態に陥る一家。

 

編集長
一連の流れは、かなりこたえましたね

 

ここで、何故まぁちゃんは、協力していた雄三おじさんにハサミを向けたのか?

彼女は両親を、一家を傷つけたくはなかったのだ。
一家の「幸せ」を願って「脱会」をしたかった。
それを望んでいた。

 

だけど、一家は「信仰なくして幸福なし」という状態にまでなっていたのだ。

 

だからこそ、まぁちゃんは一人で家を出ていくことを決めたのだ。
おそらく、それで「目を覚ましてくれる」と信じての行動だった、最後の希望にすがった行動だとも言える。

だがそれは叶わない。

 

それでも両親は「宗教を信じる」ということを決めたのだ。

 

 

深掘りポイント

この作品で、子供たちが集まって宗教の教えを昇子さんに学ぶシーンがあるが、そこでのセリフが印象的だ。

「なぜここにいるのか?」「それは自分の意思か?」
「気づいたものから変わっていく」と。

これは、この子たちが現状は、家族の付き添いできている。
自分の意志ではなく、仕方なくきている。
そこから「自分の意志」できたい。そう思えば、「生き方が変わる」ということを説いている。

最初は、周囲に馴染めなかった「はるちゃん」は、おそらく自らこの宗教を信じると心に決めたのだろう。
だからこそ、彼女は社交的な人物に変わったのだ。
これは彼女にとって「幸福」でもあり「不幸」でもあるのだ。

編集長
どう捉えるかは、はるちゃん次第でもある

 

そして最後に、同じことをもう一度昇子がちひろに問いかける。
ちひろは、本心からこの「宗教」を信じるのか、信じないのか?
投げかけられるのだ。

 

これは「書評」でも言ったが、この作品は、「宗教」を信じること。
それ自体を否定しようとはしない。

ある意味で、それを信仰する者への理解を示している。とも言える。

 

でもこれは、逆にいうと「厳しさ」でもあるのだ。

「正しい」「間違っている」と結論を付けない、それぞれの人物が、自分自身で結局決めなければならない。

 

最後に両親と見上げる流れ星。
その「流れ星」がちひろには見える、でも両親には見えない。その逆も然りだ。

これは、少しずつちひろと両親の間に齟齬が生じているということだ。

 

だがこの物語はその先の答えを提示しようとしない。

果たして、その先どうするのか?
それはあくまで、ちひろが決断しなければならないのだ。

その距離感を保ったまま幕を下ろすのだ。

 

 

ポイント

✅優しくもあり、厳しくもある。距離感が作品全体で保たれている。

 

エドワード・ファーロングとちひろ

厳しい境遇は「不幸」なのか?

 

これも書評の繰り返しだが、ちひろの恋する相手が「エドワード・ファーロング」というのは意味がある。

これは映画では、言及されてないが、ちひろは「ターミネーター2」を見て彼に恋する。
だから正確には「ジョン・コナー」に恋しているということだ。

 

 

エドワード・ファーロングが演じるジョン・コナーは「ターミネーター2」でサラ・コナーの息子として登場する。
ジョンは来る未来、人類とスカイネットという人工知能の戦争で、人類側のリーダーになることが運命づけられている。

 

前作にあたる「ターミネーター」では、スカイネットがジョンが生まれる前にサラを殺して、彼の生まれる運命をなき事にしようと、未来から殺人マシン「ターミネーター」(シュワルツネガー)を送り込む。

未来の人間側も、カイルを送り込み殺人マシンとの激闘の末なんとかスカイネットの企みを挫くことに成功する。
そして、ジョンはこの世に生を受ける。

 

「ターミネーター2」でも同じように、スカイネットは「ターミネーター」(液体型)を送り込み、子供のジョンを殺害しようとする。
未来の人類は、ジョンの味方になるように、プログラミングした「ターミネーター」(シュワルツネガー)に彼を守らせる。
そして見事にジョンは生き延び、そして、スカイネットが生まれる未来を書き換える事に成功するのだ。

 

編集長
考えてほしいのだが、ジョンはこれで幸せなのだろうか?
彼は、人類のリーダーとして、輝かしい、なんなら歴史に名を残すチャンスを不意にしたのだ。

 

未来の殺人兵器に追われる、そして人類のリーダーになる。
ジョンは、我々から見れば、重すぎる運命を背負っているようにも思えるし、そんな境遇は不運だと思ってしまう。

しかし、彼にとっては「人類のリーダー」になる未来こそ、我々から見れば不運な運命の中にいる方が幸せなのではないか?

 

それを描いたのが「ターミネーター3」だ。

一般人になった、ジョンはすっかりふぬけになり、どうしようもないダメ人間に成り果ててしまっている。
このままでは、ロクな生き方をしない。そんな予感すらさせる。

(ちなみにジョンの演者も変わり「ニック・スタール」が演じるが、エドワード・ファーロングと比べると圧倒的に「華がない」)

 

この人生の方が、彼にとっては不本意な人生なのではないか?

 

その後、「ターミネーター4」で、人類の救世主になる、その運命のレールに再び乗ったジョン。
(ご丁寧に演者を「クリスチャン・ベール」に変更して、再度「華」を与えている。)

 

このように、外から見れば不運な環境と思しき、そんな境遇から抜け出す。
それが結果として「幸福」になるのか?


 

実はジョン・コナーとちひろは、同じ境遇だと言えるのだ。
ちひろも周囲から見れば「過酷」な環境に身を置いている。
どんどん家がみすぼらしくなる。
映画では描かれないが、原作ではクラスの子たちにも「怪しがられている」描写もある。

でも、その我々から見れば「不幸」とも思える環境から逃げること。
それが「幸福」になるとは限らないとも言えるのだ。

 

ジョンとちひろに共通していることは、外部から見たら「不幸」はっきり「不幸」では? 
と思える境遇にいることこそ、本当の「幸せ」ということもありえるのだ。という点だ。

 

だが、これも何度も繰り返すが、どうするのかを決めるのは、それぞれだの決断だ。
と言う距離感は常に保っている。

 

 

ポイント

✅エドワード・ファーロングに恋をするのは、実は意味がある。

今作を振り返って

ざっくり一言解説!!

何を信じるのかは、自分が決めなければならない!!

考えれば考えるほど、難しい作品

サントラのタイトルが「Star Child」は映画ファン好きには刺さるなぁ!

まとめ

 

基本的に作品については、【書評編】で書き切っていたので、繰り返しになることが多い内容だった。

ただ、実写にすることでより強調されたのは、やはり他者の目から見たときの「不気味さ」だ。

その不気味さを見てしまったから、南先生の、配慮のない無神経な説教シーンにつながったのだともいえる。
(一応教員免許持ってるんで、言いますが。あれは配慮がなさすぎて、問題になるレベルです)

 

ただ、この理不尽な説教の後の「なべちゃん」とちひろの関係も素晴らしい。
ちひろのことを親友だからこそ、思い切り「ブラックなノリでイジる」感じ。(仲良くなかったらイジメです)

 

編集長
アメリカ映画でもよくある、親友だからこそ「軽口・悪口」を言い合える関係にも見えて、
こういう関係はすごい好きなので、なべちゃんGOOD!

 

 

ただ、この作品最後に不満点をいうのも何ですけど・・・。
途中のアニメ演出、どうしてあの演出をしたのか?
謎すぎてですね・・・。

別に、あのままちひろが感情のままに走ってしまう。
それで十分何ですけどね。

そこは「何なのだろう?」って疑問でした。

 

ただ、とにかく言えることは、ちひろと作品の語り口の「距離感」だ。

 

結局は全てはちひろの行動に委ねられて幕を下ろす今作品。

信じているものを「否定」も「肯定」もしない。

それは、「優しく」見えるが、同時にものすごく「厳しい」視点でもあるということが、やはり突きつけられてしまうのだ・・・。
この突きつけこそが「星の子」という作品最大の魅力なのだ。

 

 

まとめ

  • 優しくも厳しいメッセージ。
  • 実際に映像化されると、原作では感じなかった「不気味」さをより感じてしまう。
  • エドワード・ファーロング=ジョン・コナー、という選択は、的確である。

ということで、「書評」を読んでくださいね!
ぶっちゃけ、「書評」の方が、上手く書けてるので😢

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