ディズニー総チェック 評論

【映画記事】「ファンタジア」を見て思ったこと・・・。【ディズニー総チェック】

2020年9月25日

 

さて「ディズニー総チェック」をお届けしたいと思います。

と、いうことで今日は「ファンタジア」について、ですね。

 

この記事のポイント

  • そもそも「音楽」を映像化することに「意味がある」のか?
  • この「アート映画的」な作風は意図的か?
  • この作品でウォルト・ディズニーが意図したこととは?

「ファンタジア」について

基本データ

チェックリスト

  • 公開 1940年
  • 監督 ベン・シャープスティーン
  • 脚本 ジョー・グラント/ディック・ヒューマー
  • 製作 ウォルト・ディズニー
  • ナレーター ディームズ・テイラー
  • 出演者 ディームズ・テイラー/レオポルド・ストコフスキー

 

作品紹介


ウォルト・ディズニーが世に贈った数々の長編アニメーション映画の中でも、特に傑作として語り継がれている『ファンタジア』

クラシック・ミュージックの華麗な旋律とめくるめく色彩、そしてダイナミックで時として繊細、優美なモーションの融合は、アニメーション史のみならず映画史上、類を見ない作品として、公開以来つねに人々を魅了し続けてきました。

組曲「くるみ割り人形」にのせて繰り広げられる愛らしいマッシュルームのチャイニーズ・ダンス、軽やかに舞うカバのバレリーナとワニたち、
「魔法使いの弟子」に扮した人気者ミッキーマウスも夜空の星たちを指揮して大熱演…。

画面いっぱいにあふれる夢とファンタジーは、時代を超え色褪せることなく輝き続ける宝石。

最新のテクノロジーにより甦った色彩とサウンドが、いま新たなる感動とセンセーションを呼び起こします。

ディズニー公式サイトより抜粋

どっちつかずな作品

 

この記事の参考文献

 

音楽の解釈をアニメに仕立てることに意味があったのか?

 

今作品は8曲のクラシック音楽の演奏に合わせてアニメーションが進行していく。

「音楽を映像化した作品・顕在化した作品」つまり「音楽をアニメーション化」した作品だと言える。
そういう意味で「特殊な作品」だと言える。

 

編集長
ミュージッククリップ的な作品と言ってもいいかも

 

この演奏されるクラッシック音楽と、それを表現したアニメについて語るのはあまりにも明文化しがたいので、今回はそこには触れないで話を進めたいと思う。

 

ていうかぶっちゃけた話・・・。
この作劇ってそもそもどうなの?
という疑問が湧いてくる。

クラッシックを聴いて、観客それぞれが、それぞれに「想像する景色」「色」「物語性」に正解はないのではないか?
作曲者自身にはもしかしたら明確な正解はあるかもしれないが、その作曲者の手元を離れた音楽の解釈は、それを聴くそれぞれの観客に委ねられるのではないだろうか?

 

それを、アニメーターのイメージ。
もっというとウォルト・ディズニーや選曲に尽力したレオポルド・ストコフスキーのイメージを具現化して見せることに、どれほどの意味・意義があったのか。

その疑問が作品を見ている最中脳裏から剥がれなかった。

もちろん、音楽に合わせて繰り広げられる映像には驚く部分も多く、やはり第三幕目の「魔法使いの弟子」でミッキーマウスが登場し、コミカルに動きまわる姿には心踊ったのも事実だなのだが・・・。

 

ちなみに・・・。

僕は「ファンタジア」をBlu-rayなどのパッケージを見て「魔法使いの弟子」のように「クラッシック音楽」と「ディズニーキャラ」の共演かと思っていたので、

気持ち的な落差はすごいものがありましたが・・・。

ただこれは後述しますが、そもそもこの作品の成り立ちは「魔法使いの弟子」からスタートした。
それがちょっと変な方向に流れちゃったのが、今作の興行的失敗につながったのではないだろうか。

 

 

ポイント

✅そもそも、音楽を映像化する。そのことに意味があったのか? 疑問が残る。

興行面での失敗

 

今作品は前回紹介した「ピノキオ」と同じ1940年に公開された。

「ピノキオ」の記事でも描いたが、この両作品は興行面で大きく失敗をした

その結果「白雪姫」で築いた莫大な利益を、この2作品の失敗で吹き飛ばし、そればかりか赤字にまでなってしまったのだ。

 

 

肥大する製作費

 

秘書
どうして「ファンタジア」は興行的失敗をしたの?

 

編集長
まず第一に「莫大な製作費」が掛かったという点が挙げられるね

 

これは「ピノキオ」と同じだが「技術的面での予算」が莫大になったことが原因だ。

特にウォルトが拘った音響面

オーケストラの演奏を立体的に収録することに拘ったことがその大きな原因だ。
さらには映画を上映する映画館にもスピーカーを増設させるなどの拘りを見せた。

「音楽」が主役なのだから、そこにこだわるのは間違いではない・・・。

 

ただ、このこだわりが予算をどんどん肥大化させ、結果製作費は莫大なものになってしまったのだ。

 

 

一般層・クラシック通にもそっぽをむかれる

 

そしてもう一つの重要なのが集客面での失敗だ。

そもそも1940年当時の大衆はもはやクラシックに明るくなかったため、今作を「インテリ向け映画」だと感じたのだ。
つまり「俺たちのみたいものじゃない」として一般層に受け入れられなかったのだ。

 

一方クラシックを聴く通の間ではどうだったのか?

これは前述したが、そもそもそういう層には「アニメ」が不要なのは言うに及ばずだ。

その結果今作品は、クラシック界隈のファンからもソッポ向かれ、さらに一般層からは「インテリ向け」と見向きもされない、「どっちつかずな作品」になってしまった。

そうなれば結果は火を見るより明らかだ・・・。

 

 

ポイント

✅「制作予算の肥大化」「どっちつかずな結果」が原因で、大失敗に終わった今作品。

そもそもウォルトは”こんな作品”を作る気がなかったのでは?

 

ディズニーを象徴するキャラクター。
おそらくみんなが「ミッキーマウス」を思い浮かべるだろう。

彼の甲高い声は特に聞き馴染みがあるのではないだろうか?

 

 

これは有名な話だがミッキーの元々の声の主は、その生みの親であるウォルト・ディズニー当人だ。

先ほど紹介した参考文献によると、ウォルトはミッキーを生み出してから、彼の使い方に苦心していた節がある。

というのも、当時は、よりコミカルな役目などを担ったり、キャラクターとしての人気は、ドナルドやグーフィーとした他のキャラクターにとって変わられていたのだ。

 

ミッキーの将来についてウォルトは悩んでいた。
「どうにかミッキーに活躍の場を与えたい」と。

それはミッキーがウォルトの分身だったからこそだ。

 

そこで全編パントマイムで、「魔法使いの弟子」の演奏にのせてミッキーを活躍させようと、そうした作品を作ろうとしたのだ。

つまり元々、このような「長編クラシックのアニメーション作品」を作るつもりなどなかったと言える。

 

この作品の方向付けしたのは、指揮者のレオポルト・ストコフスキーだ。
彼はディズニー作品のファンで、ウォルトと会うと、アニメーションにできそうな楽曲を演奏をした見せたのだ。
そしてウォルトはその楽曲にインスピレーションを受けて、「クラシックを長編アニメで表現する」という作品を思いついたのだ。

 

 

ただ、ウォルトはクラシックを題材にしたからと言って「インテリ向け」と思われる作品を作ろうとはしていなかった。


例えば1幕目「トッカータとフーガ/ニ短調」
ここではいろいろな色や絵の動き、振動で音楽を表現しようとしているが、当のウォルトは「ここはパスタを茹でるイメージだな」と割と適当なイメージをアニメで表現していたりもする。

だがそれを映画評論家が「深遠を感じる」などと評論した際には苦笑したそうな。

 

つまり、当の本人は「インテリ向け」な作品は作ったつもりはないが、周囲がこの作品を「インテリ向け」もっというと「アート映画」だと評した。
その結果、より一般層には浸透しにくくなってしまったのだ。

 

編集長
もしも当初の予定通り「ミッキー」と「魔法使いの弟子」というアイデアを膨らませれば、
もしかしたら「アート映画」と思われることなく、集客をできたのかもしれない・・・

 

 

ポイント

✅元々は「ミッコーマウス」のための映画に仕上げる予定だった作品。

後年に残した影響

 

ただ、この「アート映画的」と呼ばれる表現の作品を仕上げたこと、それには意味があったのではないだろうか?

例えば「時の踊り」の動物たちのあまりにも目を疑うバレーを踊る一連の流れは、後年の「くまのプーさん」でプーが見る「悪夢」である「ズオウとヒイタチ」を彷彿とさせられた。

さらに「くるみ割り人形」でキノコのダンスなど、ファンシーな可愛げのあるものが、悪夢的な動きをするという、奇妙な魅力に満ちている映像表現も、僕はこの作品の魅力であると思っている。

 

このように、後年のディズニー作品で描かれる片鱗のような要素を感じ取ることができる、そういう意味ではこの挑戦も無駄ではなかったのではないだろうか?

 

 

ポイント

✅後年の作品に受け継がれる、要素も多い作品。

「進化論」と「宗教」の同居する世界観

 

この作品で特筆されるべき点に第4幕の「春の祭典」そして最終幕の「アヴェ・マリア」が描かれている点を指摘したい。

 

「春の祭典」は、「単細胞生物から恐竜の滅亡」までの進化の流れを描いている。
ある意味で「進化論」を映像化しているのだ。

 

しかし同時に「アヴェ・マリア」聖者の行進を描いている。
「アヴェ・マリア」はラテン語で「こんにちは、マリア」を意味する言葉だ。
つまりキリスト教的な宗教音楽の側面が強い楽曲だと言える。

 

 

「進化論」というのは「キリスト教」の教えでは否定されるべき価値観なのだ。
「種は神が作った」そう信じているキリスト教徒が、今でもアメリカでは多い。

つまりこの作品内で相反する価値観を持つ楽曲が、ラインナップされていること、これはやはりこの作品の特徴だと言える。

 

ちなみにウォルト・ディズニーの名前「ウォルト」は牧師の名前をいただいており、彼はしばし熱心なクリスチャンだと言われているが、実際は違ったそうだ。
彼自身はそう言った宗教的な思想よりも、インスピレーションを優先して生きていたのではないだろうか?

 

現代よりもまだ「宗教的な思想」が社会の根底にある時代、「アニメは悪魔的だと批判される」時代に、彼は新しいアイデアで世界を変えようとしていたのだ。

そんな彼だからこそ「進化論」と「アヴェ・マリア」という相反する価値観を同時に描くことができたのではないだろうか?

ある意味で「タブー」のない姿勢。
そしてビジョンがあったからこそ、ウォルト・ディズニーは歴史に名を残す「稀代のエンターテイナー」になることができたのだ。

その姿勢を作品で描写される事象から窺い知ることができる。

 

 

ポイント

✅相反する価値観を同一作品で描いているのが今作の特徴だと言える。

今作を振り返って

ざっくり一言解説

非常に驚かされる作品!!

思っていたよりも「癖」のある作品でした

まとめ

 

非常に癖のある作品だという印象を受けた。
それが素直な感想だ。

おそらく当時の観客も「白雪姫」「ピノキオ」という流れで(それこそ「シリー・シンフォニー」「蒸気船ウィリー」という過程を知っていれば尚更)今作を鑑賞して驚いたに違いない。

事実、僕もこの映画が「クラシック音楽の映画化をしているもの」だと知っていながら驚いた。
ここまで突き抜けているのかと。

だからこそ当初のウォルトの目指したように「魔法使いの弟子」をミッキーマウスが演じるというアイデアを膨らませればおそらくこの、観客と作り手のギャップは埋められたのかもしれない。

 

ただ出来上がった作品の要素の一つ一つに、後年のディズニー作品でも活かされているのでは? 
と思しきシーンもあるのでこの挑戦も無駄ではなかったのではないだろうか。

 

そして二つの相反する価値観を同時に描く姿勢。
この「タブー」のない姿勢は、後にディズニーが「稀代のエンターテイナー」として君臨する一つの大きな要因でもある。

その片鱗が垣間見える作品だったとも言える。

そういう意味では非常に勉強になった作品でもあった。

 

 

まとめ

  • 作り手と受け手のギャップが大きい作品だった。
  • 相反する価値観の共存ができるウォルト・ディズニーの凄み!!

ということで、次回もまた「ディズニー総チェック」でお会いしましょう!!

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