ディズニー総チェック 評論

【映画記事】「ブラザー・ベア」ー非情に「惜しい」作品ー【ディズニー総チェック】

2021年4月27日

 

ということで、今回は「長編ディズニーアニメ」を公開順に鑑賞し、評論する「ディズニー総チェック」

今日取り上げるのは、通算44作品目の「ブラザー・ベア」

 

この作品のポイント

  • 「ラマになった王様」の反省を活かす作品。
  • 「ルネッサンス期」を彷彿とさせる、美麗な世界観。
  • 狙いは良いが「惜しい」点も多い。

「ブラザー・ベア」について

基本データ

基本データ

  • 公開 2003年
  • 監督 アーロン・ブレイズ/ボブ・ウォーカー
  • 脚本 タブ・マーフィー/ローン・キャメロン
    デヴィッド・ホーゼルトン/スティーヴ・ベンチッチ/ロン・J.フリードマン
  • 声の出演 ホアキン・フェニックス ほか

 

あらすじ

衝動的な性格のイヌイットの少年キナイは、死んだ兄の敵を討つためにクマを殺すが、“グレイト・スピリット(大いなる精霊)”の怒りに触れ、クマに姿を変えられてしまう。

兄弟愛など本当に大切なことを学ぶまで、クマとして人生を歩むことになったキナイは、再び人間に戻るために旅をすることになる。

そして、ハラハラドキドキの冒険の中、愛らしい子グマのコーダや、ヘラジカのラットトゥーク、毛むくじゃらのマンモス、騒々しいヒツジなどの野生の仲間たちと出会う。

「ブラザー・ベア」は愉快な心温まるワクワクのアドベンチャー!
フィル・コリンズの音楽も心に響く。

ディズニープラスより引用

非情にすばらしい作品であるが・・・

過去の類似作よりも「重い」

 

今作品は、いわゆる主人公が「しでかした罪」
それに対して「人間ではない異形の者に変身」させられ、罪を償うという物語になっている。

 

 

この構図は過去作でいうと「美女と野獣」「ラマになった王様」と、幾度とディズニー作品で描かれてきているのも特徴だろう。

 

 

今作はその中でも最も「重い罪」を主人公の「キナイ」は犯す。
それが、この世界観では「人間的に描かれる”クマ”」を殺すという「罪」だ。

その「罪」を犯したキナイは、「グレイト・スピリット」の怒りを買い、「クマ」の姿に変えられてしまう。
そこから、如何にキナイは「人間に戻るのか?」というのが、今作のメインストーリーだ。

 

 

ちなみに、前述したような類似作品では、ある種「呪い」のような現象を解くのに、主人公の「学び・成長」が不可欠だった。
「美女と野獣」の野獣は「他者を思いやる心」
「ラマになった王様」のクスコも、基本的には「他者への思いやり」を学ぶことが、元の姿に戻るのに「重要」だった。

 

 

だが、今作は、ある種「命を奪う」ということに対する「呪い」ということで、「罪」のレベルが1段階上がっているのも特徴だと言える。

 

そして、今回キナイが学ばなければならないのは「動物」
つまり「人間」でない存在も、人間と同じように「愛し」「愛され」生きているといことだ。

もっというと、「人間」も「動物」も変わらない、だからこそ「命」は「尊ばれるべき」という、そのことを学ばなければならないのだ。

そういう意味では、今作でキナイに課されたものは「重い」のが特徴だといえる。

 

 

ポイント

✅今作は、過去の類似作よりも「課されたもの」は「重い」

兄の「死」が招く悲劇

 

今作ははるか昔、マンモスが生きているような時代
「イヌイット族」の三兄弟が物語の中心だ。

 

「イヌイット族」とは?

イヌイット (Inuit) は、カナダ北部などの氷雪地帯に住む先住民族のエスキモー系諸民族の1つ。

人種のルーツとして「日本人」と同じ「モンゴロイド」である。

 

主人公の「キナイ」は末っ子。
次男の「デナヒ」長男の「シトゥカ」
その中で、ひょんなことから「シトゥカ」がクマのせいで死んでしまうという事件が起きた。

 

 

キナイはクマへの恨みを晴らすためにクマを殺すのだが、そのせいで彼は「グレイト・スピリット」の力でクマの姿に変えられてしまう。

次男のデナヒは兄、弟をクマのせいで殺されたと思い、あろうことかクマの姿をした「キナイ」を殺そうと復讐心を燃やすことになる。

 

 

そこから今作は二つの物語が描かれることになる。
一つはクマになった「キナイ」が、子グマである「コーダ」とともに「光降る山」を目指すもの。
もう一つはクマを追い、殺そうとする「デナヒ」の物語だ。

 

ちなみに今作を「デナヒ」視点で見ると、例えば「ジョーズ」的な話だともいえる。
(作品を重ねるごとに「フロディー家」をサメがピンポイントに殺す話になっていく)
つまり、「因縁」の物語になっていくのだ。

 

この旅でキナイは「クマ」つまり、自分が殺した相手にも、実は「人間」と同じく「社会がある」ことを学んでいくのだ。

 

そして成人した際に渡される「クマのトーテム」に込められた「愛」の意味を知っていくことになる。
つまり今作では、キナイが「愛」を知ること。
それが「元の姿に戻る」カギになるのだ。

 

 

ポイント

✅クマになって、初めて「動物たち」の世界が、「人間界」と変わらぬことを知る。

末っ子が「兄」になることで・・・。

 

今作でキナイが「愛」を知る。
それに最も寄与するのが、子グマの「コーダ」との関わりだ。

 

人間の頃、キナイは三兄弟の末っ子で、常に兄たちに守られ、そして愛されてきた。
だからこそ、兄シトゥカの死の原因になったクマを殺すのに躍起になるわけだ。

そんなキナイがクマに変身させられ出会ったコーダ。
彼を最初は疎ましく思いながらも、旅をするうちに徐々に「兄弟」のような絆で両者が結ばれていく。

 

このことでキナイは学ぶのだ。
シトゥカの死の意味を・・・。

 

 

それは、シトゥカはキナイを守るためにクマに立ち向かった。
彼にクマを「殺す意思」はなかった。
ただ「愛する弟」を守るために必死だったのだと。

 

そしてキナイは、クマの立場になりそれが分るのだ。
自分を殺しにくる兄デナヒ。
彼にコーダを殺させまいとキナイは必死になるのだ。

それは「愛する者を守る」こと、つまりシトゥカと同じ行動なのだ。

 

そして今作が巧みなのはされに、そこにもう一つの視点を加えている、つまりデナヒはかつてのキナイなのだ。
怒りに身を任せ、そして「殺し」を正当化させ、狂ったように槍を突き立てる。

その姿は物語冒頭でのキナイそのものなのだ。

 

このように今作は巧みに「人間」の立場、「動物=クマ」のどちらの立場にも深く感情移入出来るように、物語の見せ方が非情に上手いのが特徴だといえる。

そして、キナイを殺しに来るのが、実の兄デナヒであるという点が、またもこの作品の悲劇性を強めているといえるのだ。

 

 

ちなみに「二つの世界」を知るキナイの視点ということで言うと、この作品は「画面サイズ」が途中で変わるのも特徴だと言える。

キナイの時には文字通り「画面が狭い=世界が狭い」
だがクマになると「画面が広がる=世界が広がる」

そもそも映画を見せる「画面サイズ」を変更することで、「世界観の広がり表現」とする手腕など面白い試みも多いのが、今作の特徴だと言える。

 

 

ポイント

✅今作は「立場」を入れ替えることで「人間」「クマ」どちらにも深く感情移入させる作りになっている。

いい作品なのだが・・・

 

このように今作は「狙い」はしっかりしていて、概ね「狙い通り」進んでいる。

だが、どうしても指摘しないと行けない点もある。
それが物語の決着のさせ方だ。

 

というのも、結局最後にキナイが、クマの立場になり「愛」というものを知る。
それはある意味でコーダとの間に「兄弟愛」を築く事ができたから、そして、そのことでシトゥカの真意を知ることが出来たからだ。

 

ちなみにこの作品内ではキナイの「人間に戻る」というオチを最後に持ってくる。
それはいいのだが、ある意味でシトゥカは、このキナイの「呪い」を解ける立場の存在なのだ。
その彼がこの作劇を観ている限り、キナイとデナヒをけしかけているようにしか見えないのだ・・・。

 

この作品を見てると、シトゥカは明らかに「復讐心メラメラ」のデナヒをキナイの元に導こうとしている。
つまりどう見ても「兄弟喧嘩」を煽る兄という風に見えてしまうのだ。

 

もちろんシトゥカの狙いである、キナイに「お前の殺したクマにも”愛”という感情がある」そのことを「クマ」の身になって学べ。
それが、キナイを守るために自らの身を捧げた、シトゥカの行動を知ることになる。
つまりそれこそが「兄弟愛」であり、それを分かってくれということなのだが・・・。

 

その狙いはよく分かるのだが、どうしても「けしかけているように見える」
そのために、ノイズが生じることになるのだ。

 

 

これがもったいない。
しかも、この作品はこのデナヒとキナイの「殺し合い」にも近いやり取りを何度も繰り返す。

その時はシトゥカは静観しているのか、姿を見せない。

 

しかし何故か最後には「キナイ」を人間に戻すのだ。
これは勿論「光降る山」にたどり着いたことも理由だし、キナイとコーダに「愛」が芽生え、キナイが「愛」の意味を学んだからだ。

理由は分かる・・・。

だが、それでも最後の展開は唐突すぎるのだ。

 

編集長
これは見た人なら分かると想うのだが、若干キナイが人間にもどる「タイミング」も不自然に見えた気がしました

 

このようにシトゥカの行動や、ラストの展開のあまりにも不自然さなど、「いい作品」だし「狙いも分かる作品」ではあるが、少々粗も目立つ「惜しい」点も多いのが、悔やまれる作品なのも否定できない。

 

 

ポイント

✅「手放し大絶賛」とはいかない、「惜しい」点もある作品。

 

今作品を振り返って

ざっくり一言解説!!

いや、「狙い」は分かるけど、「惜しい」

全体的には「良作」なんだが、「惜しい」のよなぁ

まとめ

 

今作は映像美が素晴らしい点も忘れてはならない。

「ルネッサンス期」を彷彿とさせる「美麗」な自然描写。
動物描写など、アニメクオリティはやはり素晴らしい。

個人的に「ラマになった王様」あたりの「カートゥーンアニメ調」よりも、やはりこういう「写実的」な方がディズニーらしくて好きだ。

 

そういう意味でも「いい作品」だったといえる。

 

 

作品内容も「相手の世界を知る」ことで、一つの「生き物」として成長したキナイというのが描かれ、概ね狙い通りいっているのだが・・・。
どうしても最後の物語運びに「疑問符」が残る点もある。

 

そういう意味で「良作」だが、もっと良くなったハズ!! と消化不良感もある作品だと思った。

 

そういう意味では、やはり「惜しい」と言わざるを得ない。

ただ、全然見ごたえある作品なので、ぜひ「一度」は見てもらいたい作品と自信を持ってオススメしたいです!!

 

 

まとめ

  • キナイの立場を変えることで、世界の見方をかえる。
    狙いはうまくいっている作品。
  • 良作だからこそ「惜しい」のが目立つ作品だともいえる。

映画評 評論

2023/8/31

『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』〜SEED新作に向けて、総チェック〜

今週、評論するのは久々のガンダム作品。 中でも大人気アニメシリーズ『ガンダムSEED』の再編集版がHDリマスターされ劇場公開され話題沸騰中!2024年1月26日には続編も公開するということで、この機会に「SEED」を再鑑賞して評論していきたいと思います。 ということで『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』こちらを鑑賞してきたので、評論していきたいと思います。   目次 『機動戦士ガンダムSEED スペシャルエディション 虚空の戦場』について作品概要『機動戦士ガンダムSE ...

ReadMore

ディズニー総チェック 評論

2023/8/27

『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』が伝えたいこと【ディズニー総チェック】

今回は久しぶりにディズニー長編アニメーションを鑑賞し、評論する【ディズニー総チェック】 評論するのは長編アニメーション61作品目で、ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念作品でもある。 『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』について語りたいと思います。   この作品のポイント 100周年のタイミングで「未来への提言」 この提言は「ウォルト・ディウズニー」的と言えるのか? 目次 『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』について作品概要基本データあらすじ冒険ものとして・・・。クレイド家男子の ...

ReadMore

PIXAR総チェック 映画評 評論

2023/8/19

『マイ・エレメント』〜完全なる私小説〜

  今回は「ピクサー」の27作品目となる長編アニメーション映画最新作『マイ・エレメント』 こちらの作品を鑑賞してきたので、感想を語っていきたいと思います。   目次 『マイ・エレメント』について基本データ あらすじ韓国系アメリカ人監督の語る「私小説」どストレートな恋愛映画腑に落ちないラスト 『マイ・エレメント』について   基本データ 基本データ 公開 2023年 🇯🇵8月4日 監督 ピーター・ソーン 脚本 ジョン・ホバーグ/キャット・リッケル/ブレンダ・シュエ 製作総指揮 ピート・ドクター 出演者 リー ...

ReadMore

映画評 評論

2023/8/15

やはり『バービー』は名作だった!

今回も新作映画を鑑賞してきたので、感想・評論をしていきたいと思います。 今回は、世界中で愛され続けるアメリカのファッションドール「バービー」を、マーゴット・ロビー&ライアン・ゴズリングの共演で実写映画化した作品。日本では8月11日より公開された『バービー』 こちらの感想を述べていきたいと思います。   目次 『バービー』について基本データあらすじ冒頭から爆笑の展開ケンという存在何者にならなくてもいい、そのままでいい完璧ではない、でも「それでもいい」 『バービー』について 基本データ 基本データ ...

ReadMore

映画評 評論

2023/8/9

『キングダム 運命の炎』はやはりすごい!

今回は、漫画家・原泰久による、累計発行部数9,500万部を超える同名タイトルの人気漫画を実力派キャストで実写化した「キングダム」シリーズ。 その、シリーズ第3弾となる最新作『キングダム 運命の炎』 こちらを鑑賞してきたので、感想を語っていきたいと思います。 目次 『キングダム 運命の炎』について作品についてあらすじ何度もいうが、ここまで出来ているのは「凄い!」静かな前半このシリーズ最大の功労者「大沢たかお」まとめ 『キングダム 運命の炎』について 作品について 基本データ 公開 2023年 監督 佐藤信介 ...

ReadMore

-ディズニー総チェック, 評論
-

Copyright© Culture Club , 2023 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.