映画評 評論

【映画記事】「ブランカとギター弾き」が教えてくれること

2020年6月17日

今日は平日の夜、見るのにぴったりな「短い、でも深い」作品をご紹介。

それは「ブランカとギター弾き」です。

77分という非常にコンパクトな映画!!

この記事を読んでわかること

  • 「売春」「里親」という行為の”本質”にある「共通点」が見えてくる。
  • 大切なのは「どこで生きるか」を自分で決めること。

「ブランカとギター弾き」について

基本データ

  • 公開 2017年
  • 監督/脚本 長谷井宏紀
  • 出演 サイデル・カブテロ/ピーター・ミラリ ほか

この作品、日本人監督なのが驚き

窃盗や物乞いをしながら路上で暮らしている孤児の少女ブランカ

彼女は、ある日テレビで、有名な女優が自分と同じ境遇の子供を養子に迎えたというニュースを見て、“お母さんをお金で買う”というアイディアを思いつく。

その頃、行動を共にしていた少年達から意地悪をされ、ブランカの小さなダンボールで出来た家は壊され、彼女は全てを失ってしまった。

途方に暮れるブランカは出会ったばかりの流れ者の路上ギター弾きの盲人ピーターに頼み込み、彼と一緒に旅に出る。

辿り着いた街で、彼女は「3万ペソで母親を買います」と書かれたビラを張り、その資金を得るために窃盗をする。

一方でピーターは、ブランカに歌でお金を稼ぐ方法を教える。

ピーターが弾くギターの音に合わせて歌い出したブランカの歌声は、街行く人々を惹きつけていく。

ある時、二人はライブ・レストランのオーナーに誘われ、幸運なことにステージの上で演奏する仕事を得る。

十分な食べ物、そして屋根のある部屋での暮らしを手に入れ、ブランカの計画は順調に運ぶように見えた。

しかし、彼女の身には思いもよらぬ危険が迫っていた……。

公式サイトより抜粋(http://www.transformer.co.jp/m/blanka/about/index.html

異常なまでの「実在感」

キャスティングが素晴らしい

今作品最大の特徴はキャスティングにある。

特に盲目のギター弾きの「ピーター」
彼を演じる「ピーター・ミラリ」は実際にマニラの街角で流しのギター弾きをしており、現実と虚構が強烈にリンクする。
そのことでの存在感が目を見張る。

ほかにもストリートチルドレンである「セバスチャン」「ラウル」
この2人も、実際にスラム街のゴミ山で生きていた2人を出演させている。

確かに「役」「演技」という「虚構」を2人は演じて入るが、彼らの存在感は強烈な「現実」が垣間見えるのだ。

そのことで異常なまでの「実在感」が終始この作品を支配している。

そして、主人公の「ブランカ」を演じる「サイデル・カブテロ」
彼女は「YouTube」に自身の歌っている姿をアップしたことが今作主演のきっかけになった。

彼女はストリートから見出されたわけではないが、それでも演技初経験とは思えないほど素晴らしい演技を見せてくれる。

そして、この思い切った「座組み」を完璧に指揮する監督「長谷井宏紀」の力も素晴らしいものがある。

驚きなのは監督は今作品で「長編監督デビュー」ということ

ポイント

✅作品全体に宿る「実在感」に圧倒される

孤児の幸せとは何か?

当たり前のないブランカ

今作品の主人公「ブランカ」は「母親を買う」ために盗みや、歌でお金を稼ごうとする。

彼女は母に捨てられ、身寄りもない為に「ストリートチルドレン」として生きるしかなくなってしまった。

ブランカが「母を買う」決意をするに至るニュース番組。
そこではセレブが孤児を養子に迎えたことが報じられていた。

海外セレブが時折こうした孤児を養子に迎えることなどが、時々ありますよね

そのニュースをみた品のない親父が発した「金があったらこの”女”を”買いたい”ね」という言葉。
(この”買う”という言葉は、説明せずとも意味は読者なら察してくれていると思いますが・・・。)

それを聞いたブランカは「母を買う」ことを思いつくのだ。

今作品は、ブランカが「母を買う」よりも大事な「絆」を見つける話なんだ

ブランカには「母」がいない。家もない。
我々が当たり前だと思っていること、それが「ない」

彼女やストリートチルドレンは考える。
「貧しい」だからこそ当たり前のものが「ない」のか?

「お金さえあれば手に入る」

ブランカたちは「貧しい」からこそ「お金」があれば「なんでも手に入る」と思ってしまっているのだ。

だが実際は、そんなことはない。

終盤ラウルは、お金のためにブランカを売り飛ばしそうとするが、それをセバスチャンは止める。
セバスチャンにとっては「お金」よりも「ブランカ」の方が大切で、彼女は「お金」で買えない存在だと気づくのだ。

ブランカも母を買うことはできないことに気づく。
それよりも大事な「絆」があることを知るのだ。

「お金」「もの」
それ以上のものが「確かに存在する」
今作品はそのことに気づく物語であると言える。

ポイント

「貧しい」からこそ「お金」があれば、なんでもできると考えてしまうストリートチルドレンたち。

✅「お金」がない、だからこそ見えなかった「大切なもの」を見つける作品だと言える。

子供を”買う”ということは変わらないのではないか?

今作品でブランカは「風俗」に売られそうになるという危機に陥る。
その際、先輩の風俗女たちは「きれいにして、選ばれないと」と口にしている。

これは「選ばれること」つまり「買われる」ことで給与をえようということ、つまり自分を「きれいに見せて”売る”」ということだ。
そして当然だが、それを「買う」存在もいるということだ。

一方でそれと同じ趣旨のセリフが「孤児院」で養子を探す里親候補の前に出る子供たちの口からも発せられる。

「きれいにして、選ばれないと」

これは孤児院に来る里親候補に、自分を選んでもらいたいという思いから出た言葉だ。

これも言葉の本質としては、前者と何も変わらない「自分を売る」ということなのだ。

もちろん「売春」「里親」という行為を同じだという暴論を吐くつもりはない。

だがその根っこにある”本質”、大人が子供を「買う」ということ。
そこはある意味で共通しているのではないのか?

ブランカはそれに気づいて「孤児院」からも脱走して、自分でピーターと生きていく道を選ぶ。

先ほど「お金」で買えないものもある。つまり「母親」は買えない。と言ったが、「子供」は買えるのだ。

もちろん「里親」「養子」という行為自体は素晴らしいものだ、だがその行為の本質は「買う」という行為に近いものがある。
そのことを本作を鑑賞して、強く意識させられてしまった。

ポイント

✅「売春」「里親」、その両方に共通するのは「買う」という行為に近いものがあるかもしれない。

大切なのは「選ぶ」こと

「売春」「里親」という行為の根っこの共通点について話してきたが、結局のところ、どの生き方をするにしても大切なことがある

それは「自分で選ぶこと」

ブランカは自分でピーターと共に生きることに決めた。
孤児院に入れば良縁で養子になれたかもしれない。

だけどブランカはピータとの絆を選んだ。
それはきっと「母を買う」ことや、「お金」以上にブランカにとっては尊いものなのだ。

セバスチャンもラウルの元を離れてピーターのもとに来た。
「盗みをしない」「真っ当に生きる」
そのために生き方を変える選択をしたのだ。

はっきりいうと、この決断が正しいのかどうか、それはわからない。

だけど、どう生きるのかを決めること、それが人生において最も大事な決断だ。

ブランカが作中で歌う「家に帰ろう」という歌詞。
その「家」を自分で選ぶことになったブランカ、結局のところ「ストリートチルドレン」を脱することはできていない、状況は物語開始時から変わらない。

けれど、「どう生きるのか」という選択をした彼女は、少しだけ人生を「肯定」することができるのではないだろうか?

選ぶ選択肢の少ない立場として生まれたが、それでも「どう生きたいのか?」という選択をしたブランカの姿は我々に問いかける。

「どう生きたいのか?」

本当に「生きたい」人生を歩めているのか?

その問いかけが心に突き刺さった。

ポイント

どう生きるのか、それを選ぶことが大切。

✅我々は「どう生きる?」のかを選んでいるのだろうか、そのことを考えさせられてしまう。

今作を振り返って

ざっくり一言解説!

月並みな言葉だけど、「いい映画」です!

まとめ

本作の完成後、ピーター役のピーター・ミラリは急死した。

おそらく彼も「流しのギター演奏家」という人生を生きることを自ら「選んだ」のだろう。

そんな彼の人生の生き写しのようなピーターは、ブランカの生き方を変えた。
人生で大切なことは「選択すること」ということを口にせずとも、その生き方で気づかせてくれたのだ。

そして我々が「良きこと」と思っている養子を迎えるということ。
もちろん、それは素晴らしいことだが、その根っこには「子供を買う」という行為に近いものがある、とういう点も見逃せない。

「子供」は「里親」を「選べない」
「里親」は「子供」を「選べる」

この当たり前だけど、不公平な世界の構造も見せられる、非常に考えさせられる作品だった。

本日も読了ありがとうございます。
また次回お会いしましょう!

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