
2020年8月29日。
信じられないニュースが飛び込んできました。
チャドウィック・ボーズマン氏が43歳という若さでなくなりました・・・。
謹んでご冥福をお祈りします。
そして僕なんかがおこがましい限りですが、このタイミングで「ブラックパンサー」について語ることに「何かしらの意味」があると思いましたので、今日はその話をしていこうかと思います。
今作品のポイント
- 2人の思想のぶつかり、そして結末。
- 同時期に作られた「同テーマ」作品。
これらがなぜ同時多発的に生まれたのか?
目次
「ブラックパンサー」について
基本データ
- 監督 ライアン・クーグラー
- 脚本 ライアン・クーグラー/ジョー・ロバート・コール
- 原作 スタン・リー/ジャック・カービー
- 製作 ケヴィン・ファイギ
- 出演者 チャドウィック・ボーズマン/マイケル・B・ジョーダン

あらすじ
アフリカの秘境にありながら、世界の誰もが創造出来ないような最新テクノロジーをもつ<超文明国ワカンダ>。
ここには世界を変えてしまうほどのパワーを持つ鉱石<ヴィブラニウム>が存在する…。
突然の父の死によって王位を継いだティ・チャラは、この国の“秘密"を守る使命を背負うことになる。ヴィブラニウムが悪の手に奪われると、人類に未来はない――。
“秘密"を狙う敵に立ち向かうのは若き国王。
漆黒の戦闘スーツをまとい、ブラックパンサーとして戦うティ・チャラは、祖国を……
そして世界を守ることができるのか?
アマゾン商品ページより引用
ティ・チャラとキルモンガー

今作で特筆すべきこと
今作品は、2019年(第91回)アカデミー賞において、スーパーヒーロー映画として初めてとなる作品賞にノミネートされた。
歴史的な快挙を達成した作品であると言うことは、まず「特筆」すべきだろう。
ちなみに同年の作品賞にノミネートされた3作品。
「グリーン・ブック」「ブラック・クランズマン」そして「ブラックパンサー」
これらは、どれも「黒人差別」について描いた作品だ。
そして実際に同年のアカデミー作品賞をとるのは「グリーン・ブック」だ。
このように、同じ年に、全く別のアプローチ、しかしながら「黒人差別」という共通の、世界に根強く残る問題を描いた作品が生まれたのは、偶然ではないだろう。
ココがポイント
✅「ブラックパンサー」は「黒人差別」をヒーロー映画として描く
✅「グリーン・ブック」は「友情物語」を通じて「黒人差別」を描いた
✅「ブラック・クランズマン」は「風と共に去りぬ」など、「映画史」における「黒人差別意識」を描いた
ではなぜ、このような「共通の問題意識」で描かれた作品が多いのか?
その答えこそ、今作品のラストの国連でのティ・チャラのスピーチにある。
「賢い者は橋をかける、愚か者は壁を作る」
この言葉に、全ての理由が凝縮されている。
それは、アメリカでトランプ大統領が誕生し、世界に「分断」をもたらしたからだ。
「貧富の差」「人種」など(その全ての是非について語ることはしませんが)、ただ政略として「分断」を狙ったのは事実だ。
その中で「メキシコ国境に壁を築く」との発言は最たるものだろう。
ちなみに2017年にローマ法王が「壁ではなく橋を築くべき」と発言をしており、ティ・チャラのスピーチは、おそらくこの法王のセリフを引用したのだろう
作り手たちは間違いなく、この「分断」に危機感をもった。
だからこそ同じテーマを扱う作品が揃って作品賞にノミネートされることになったのだ。
ポイント
✅「分断」に対しての危機感から生まれた作品だと言える。
「光」「闇」の「分断」
今作品は「ティ・チャラ」という「黒人世界の光」
「キルモンガー」という「黒人世界の闇」
同じ黒人でありながら、完全に「分断」された存在が互いの「正義」をぶつけあう物語だ。
光/ワカンダ王国
まずは「ティ・チャラ」の話からしよう。
彼は「ワカンダ王国」の王(なぜ王位に着いたのかは「キャプテン・アメリカ シビル・ウォー」を見てください)、権威も名誉も何もかもを持っている。
その上「ブラックパンサー」というスーパーヒーローだ。
そもそもこの「ワカンダ王国」の存在も「分断」の象徴だ。
アフリカに隠された秘密国家である「ワカンダ」
表に見せている姿は極貧国家だが、実は超高度に発達した文明を持つ国で、この文明力はハッキリと、他の国家のそれとは比べ物にならないレベルにまで達している。
彼らは、その高度な文明テクノロジーが外に漏れてはならないと、外に漏れれば世界での戦争が大きく広がることを危惧している。
そのため、彼らは「自国の国民」と「世界平和」のために、世界の表舞台に立つことはせず、隠遁していた。
これはあくまで「世界の為」そして「自国の平和」を守るためなのだ。
その平和を乱す。
ワカンダの秘密を外に漏らそうとする者。
そうした危険因子を取り除くために生まれたのが「ブラックパンサー」なのだ。
そんな隠遁を続けるワカンダ王国の外では、当然のことながら、「多くの黒人」が「悲惨な目」にあっている。
だが、彼らはそれを見て見ぬ振りをしているのだ。
高度なテクノロジーが流出することで「世界に危機が及ばぬよう」隠遁をしている「ワカンダ王国」
闇/キルモンガー(現実の黒人の立場)
今作品のヴィランである「キルモンガー」
おそらく本作を見た誰もが、彼に思い入れせずにはいられない存在ではないか?
彼は現実の、それこそ我々の知る世界で、黒人が受けてきた酷い差別に苦しめられてきた存在だ。
そんな境遇の中でも、いつか父が夜な夜な語ってくれた夢の王国。
「ワカンダが助けてくれる」ことを夢に見ていたのだ。
しかしその助けはこない。
彼はアメリカで秘密工作員として「同胞」をも手に掛け、必死に這い上がる。
その度に自分の体に殺した人間の数だけ「傷をつけ」、その日を待った。
だが次第に憧れていたはずの「ワカンダ王国」に恨みを募らせるのだ。
「なぜ、その高度な力で我々を”黒人”を助けてくれないのか?」と。
ワカンダ王国は、その技術を自らのためだけに使い。のうのうと生き「平和」「豊さ」を享受している。
それが許せなくなるのだ
彼は自ら「ワカンダ王国」の王位を継承し、そして世界で苦しんでいる同胞を救うために世界を征服しようともくろむ。
なぜ、苦しむ我々を「ワカンダ王国」は見捨てるのか。世界の黒人のために「ワカンダ王国」を支配しようと目論む「キルモンガー」
このように2人の存在は「光」と「闇」だ。
そして彼らは「王位継承権」を持つ、実は血縁関係にあり「兄弟」と呼んでも過言ではない関係性だ。
ジョジョ一部の有名な「二人の囚人が鉄格子から窓を眺めた。一人は星を見た。一人は泥を見た」という対比に当てはまる
ティ・チャラも外で起きていることに心を痛めている。
だが、「世界」のために、やはり隠遁することを続けようとする。
キルモンガーは、この苦しみから「黒人」を救うために立ち上がろうとする。
この2人の主義思想のぶつかり合い。
これが今作品最大の見所なのだ。
ポイント
✅2人の「思想」は、どちらも深く理解できてしまう。
✅キルモンガーは、今作品では「悪」として描かれているが、彼の思想にも思い入れてしまう。マーベル作品史上最高の「ヴィラン」
「ワカンダ・フォーエバー」

対立の果てに「出す答え」
2人は対立し、お互いを否定する。
2人の主張はどちらも正しくあり、間違ってもいる。
その闘いの果てにティ・チャラが出す答えとは?
父を殺し、自分たちを見捨て、憎悪の対象になったワカンダで、ある光景を目にしたキルモンガーの最期の言葉とは?
この2人のぶつかりを描いた今作品。
その最大の良さは、その対立の先、結論から逃げることなく、しっかり踏み込んでいる点だ。
ティ・チャラが当初の孤立主義を止める決断。
当然キルモンガーのような、やられたらやり返すという、輪廻とも言える繰り返しをするのではない。
人道的支援のために国を開き、その結果世界に「生まれるかもしれない」悪を討つために行動することを決める。
ティ・チャラは「壁ではなく、橋をかける」ことを選ぶのだ。

トランプ大統領は「アフリカは便所だ」と言った。
彼は、難民に対して、橋をかけるのではなく、壁を作った。
そのことをストレートに批判したこのシーン。
この演説シーンでのティ・チャラは就任演説ころのオバマのように輝いて見えた。(振り返ればオバマ政権にも多くの問題はあった。けれど希望に満ちた言葉を発していた)
この困難な決断をしたティ・チャラにも多くの困難に出会うだろう。
(事実「インフィニティー・ウォー」「エンドゲーム」とかいうエゲツない困難に見舞われた)
しかし、ティ・チャラはキルモンガーとの対立の中で、彼の苦しみを知り、王として、人間としても強くなった、だからこそ、困難が待っている道を選んだ。
ティ・チャラはキルモンガーの苦しみを知り、成長したのだ。
2人の交わることのなかった、想いは最後に交わり大きな川となり、「大海」のような大きな理想へと流れていくことを願ってやまない。
「ワカンダ・フォーエバー」と願わずにはいられない。
そんなラストに僕は心を打たれた。
ちなみに今作の冒頭の「ワカンダ王国」の御伽噺を、誰が、誰にしているのか?
それがわかって観ると、2回目は冒頭から泣かされてしまうので、何度も繰り返し見ても感動が増す作りにもなっている。
ポイント
✅ティ・チャラはキルモンガーの「苦しみ」を知った、だからこそ最後の決断に至った。
✅2人の思いが合流する、結末に心打たれる。
魅力的なアフリカンデザイン
今作品の舞台「ワカンダ王国」
描かれる世界観は「近未来SF」的ではあるが、しかしそこかしこに「アフリカ」らしい「デザイン」に満ち溢れている。
特に「ドーラ・ミラージュ」のオコエは最高にかっこいい。
各部族長のタトゥーやカラフルな戦闘装備など、グレーなどの近未来観に満ちた世界に、不釣り合い、だけど「あっている」
そんな独特の画面構成もこの作品の見所だ。
京都駅で昔サプールの方々を見たときの感覚に似ている。(のかなぁ笑)
(ほら、なんかあそこ近未来SFぽいやん)
また戦闘シーンに「野性味」が溢れているのもいい意味で「アフリカっぽい」と感じた。
最強の兵器が、「サイ」というのも、これもアイデアとしては面白い!
また、随所に「ライオンキング」ぽさを感じたり、ここまで「アフリカ」を意識させられる映画もまぁ珍しいと思わされたりね。
あとBGMも必聴です。
耳をすませばあら不思議、「ようこそワカンダ王国へ」とでも言わんばかりに、我々を魅惑のテクノロジー国家に招き入れてくれる。
ポイント
✅画面の隅々まで見所たくさん!
チャドウィック・ボーズマンの好演
そしてこの作品を盛り立てたのは間違いなく、チャドウィック・ボーズマンの熱演だ。
ティ・チャラはキルモンガーと出会い(実はその前からだろう)、そして「ワカンダ王国」そして「自分」のあり方に疑問を抱く。
だが、それでも「世界を征服しよう」というキルモンガーに対して負けられない。
力を振り絞り立ち上がるのだ。
だがそこには、悩みがある。
かたやマイケル・B・ジョーダン演じるキルモンガーは意志の強さを感じる。
彼は、自分の野望実現のためには「同胞」をも殺すことも厭わない。

正反対の2人だが、最後にはティ・チャラはキルモンガーの思いの「一部」を引き継ぐ、そこから「開国宣言」する際の迷いのない表情。
弱さも、そして強さもティ・チャラの揺れる心情のニュアンスを表現したチャドウィック・ボーズマンの好演はやはり、素晴らしい。
彼がティ・チャラで本当に良かった・・・。
改めて、心よりご冥福をお祈りいたします。
今作を振り返って
ざっくり一言解説
ワカンダ・フォーエバー
見たら叫びたくなるこのセリフ!
まとめ
「ヒーロー映画」として、ここまで社会派視点で切り込んだ作品はなかったのではないか?
「黒人差別」という悲しいけれど、まだまだ根付く問題に対して、踏み込んだ今作。
しかも、それを架空の「ワカンダ王国」という存在を使って「黒人の分断」としての視点から描く。
そんな離れ業をやってのけた今作。
我々の生きる、現実の「黒人」的立場のキルモンガー。
彼の「思想」は深く共感できてしまう。
2人はまるでコインの表裏。
交わることのない2つの川だ。
だが最後に合流し、そして「理想」という「大海原」を目指していくティ・チャラ。
キルモンガーの思いを汲んで、彼の思いに応える決断は胸を打つ。
ヒーローが倒すべきは「悪」だけではない、この世界にある「様々な差別」
そんな「心の闇」も倒すヒーローが現れたのだ。
「ブラックパンサー」はだからこそ素晴らしいのだ。
今作のまとめ
- しっかりと難解な問題提起に対して、結論を描いた姿勢が素晴らしい。
- 素晴らしすぎる「大傑作」であることは間違いない。
ということで、今日も読了お疲れ様でした。
また次の記事でお会いしましょう!