映画評 評論

【映画記事】「野球少女」ー男子、女子ではなく「1人の投手!」ー

 

さて今日は久しぶりに「新作映画評論」をします。

ということで、昨年から公開を待っていた作品「野球少女」を今日はご紹介したいと思います!

 

編集長
2021年は「韓国映画」に注目する一年にします

 

この作品のポイント

  • かつて「野村克也」の残した言葉。
  • マウンドにいるのは「男子」「女子」ではない、1人の「投手」だ。

「野球少女」について

基本データ

基本データ

  • 公開 2021年
  • 監督/脚本 チェ・ユンテ
  • 出演者 イ・ジュヨン/イ・ジュニョク/ヨム・ヘラン/ソン・ヨンギュ

あらすじ


青春の日々をすべて野球に捧げ、〈天才野球少女〉と称えられてきたチュ・スイン(イ・ジュヨン)。

高校卒業を控えたスインは、プロ野球選手になる夢をかなえようとするが、〈女子〉という理由でテストさえ受けさせてもらえない。

母や友だち、野球部の監督からも、夢を諦めて現実を見るようにと忠告されてしまう。

「わたしにも分らないわたしの未来が、なぜ他人に分かるのか」

──自分を信じて突き進むスインの姿に、新しく就任したコーチ、チェ・ジンテ(イ・ジュニョク)が心を動かされる。
同じくプロになる夢に破れたジンテは、スインをスカウトの目に留まらせるための作戦を練り、特訓を開始する。

次々と立ちふさがる壁を乗り越えたスインは、遂にテストを受けるチャンスを掴むのだが──。

映画「野球少女」公式サイトより引用

どうすれば、「投手」として活躍できるのか?

プロ野球選手になりたい”少女”であること

 

この作品の主人公であるスインは、女子選手でありながら球速130キロオーバーを誇り、世間では「天才野球少女」と呼ばれていた。

そんな彼女が「プロ入り」を目指すのがこの作品の主な物語だ。

 

この作品で一番考えなければならないのは、「女子だから」というのがスインの夢の妨げになっていることだ。

 

というのも、そもそも彼女が「高校野球部」の部員として参加できているのは、学校側の話題作りという点もあるのだ。
事実、学校のエントランスには「女子高校野球選手」であるスインの記事が掲げられる。

これは創部から3年の野球部の話題で、学校の評判を上げるために、いわばスインを理由してきた側面もあるといえる。

 

 

だが、創部3年目で「韓国プロ野球 KBO」にドラフト指名され、プロ入り選手が排出されると、すぐにそのエントランスには、「創部三年目でプロ選手排出」というもの置き換わるのだ。

 

 

ここで問題なのは、スインを周りの人間は誰もが「女子野球選手」という点でしか語っていない点だ。
結局のところ「130キロ超えのストレート」それは、「女子としてはすごい」ということで、「天才野球少女」と持て囃されている。

 

そして、トライアウトに参加しようとしても、「女子」だからという理由で土俵にも上げてもらえない。

 

こうした周囲の声、彼女への対応で、実は彼女自身も「女子だから」という考え方を持ってしまうことになる。

 

 

どうしても、諦められない「プロ野球選手」になるという夢。
どこでも良いから、テストしてくれる場所を探して彼女は卒業間近ながら、練習を続ける。

そこにチームに新任のコーチ、ジンテがやって来る。

 

編集長
韓国の高校野球は「坊主文化」ではないんだ!と驚かされました

 

ここでジンテはスインの投球をみて、「野球ではない道を探せ」と厳しく言い放つのだ。

 

当然スインは、「女子だから」そう言われるのか?
母親や、担任の先生のように、このコーチも、自分を「女子だから、別の道に行け」と言っているのか? と考えるようになる。

そこで実力行使と言わんばかりに、コーチの前でバッターを打席立たせて勝負して、実力を見せつけようとする。

 

編集長
このあたりの流れもスポ根らしくて好き!

 

2ストライクまで完璧に追い込むものの、ジンテはバッターにアドバイスをする。
するとタイミングがまるで合ってなかったのが嘘のように、アジャスト、ボールははるか遠くに運ばれてしまう。

すっかり意気消沈するスインだが、今度は球速が足らないことが原因だと、スピードボールを求めてトレーニングをするのだ。

 

 

ポイント

✅「女子」だけどすごい。「女子」だから無理。様々なところで「女子」だから、という壁にぶち当たる。

✅スインも知らずに、その考えに支配されている。

「投手」としての欠陥

 

諦めようとしないスインを見かねるジンテ。

「諦めろ」
「それは、私が女子だからですよね!」
だが意外な答えをジンテは返す。

 

「女子だから、ではない、投手として能力が足りないのだ」と。

 

ここで重要なのは、スインは、周囲に「女子だから」などと言われており、知らず知らず、自分で自分を「女子だから」という型にはめ込んでいたのだ。

つまり、自分が「ドラフトにかからなかった」こと。
それも「女子だから」と自己解決していたのだ。

 

 

そもそも韓国プロ野球や日本プロ野球で、投手は球速の求められる時代。
150キロは当たり前、160キロ投手は「地獄からでもとってこい」と言われる時代。

そもそも、「男・女」関係なく、球速が足りないと、「投手」として評価されないのだ。

 

スインを投手としてみた際、球速は130キロを超えない。
ただ、性差関係なく、130キロを超えない投手は超えない。
そうすると「プロ」にはなれない。

 

ジンテは一見すると厳しい言葉をスインに投げかけるが、実は彼が最もフェアに「野球選手」として「投手」としてスインを見ていたし、接していたのだ。

 

 

ポイント

✅知らず知らず、周囲の声で自分自身を「女子だから」と型にはめてしまっていた。

✅ジンテはスインを「女子」でなく「投手」として見ていた。

どういう投手として生きるべきか?

 

かつて野村克也氏が「ドカベン」で有名な水島新司氏との対談で、「女子がプロ野球界で活躍するには、どうすればいい?」と質問した際、このような返答をしたそうだ。

 

「その投手にしかないボールがあれば、ワンポイントとしてなら通用するかもしれない」

 

当時は誰も水島新司氏の質問を笑い話だと聞き流していたそうだが、野村氏だけは真剣に考えたそうだ。

そこには「女子」云々という点は頭にあったかも知れない。
だけど一選手として考えた場合「筋力・体力で劣る投手」が生きる道を考えたとも言える。

 

事実「男」だとしても「筋力・体力」で劣る選手はいる。

 

そんな野村氏の言葉を聞き、水島氏は「野球狂の詩」を世に送り出した。

 

 

今作はある種、この野村氏の持論を地で行く展開になっていく。

「球速ではなく、打ち取る術」の取得だ。
そこでスインはナックルボールを取得し、完璧にコントロールする練習に励んでいく。

 

打者のタイミングを狂わせて、コントロールとキレで勝負。
もともとストレートの回転数が男子と比べても多いスインは、手元で球が伸びるのだ。

こうしてジンテとスインは、練習を重ねる。
この展開「スポ根好き」にはたまらない展開だとも言える。

 

 

ポイント

✅野村克也氏の持論を地で行く展開。

✅自分でできるベストを求めて練習に励む、青春映画として素晴らしい。

ただのスポ根要素だけではない、親ならではの苦悩も描かれる

 

学校卒業間近で、大学にも進学しない、就活もしない。
ただひたすら「プロ入り」を目指して練習するスイン。

 

そんな彼女を母は心配する。

 

実はスインの父も夢見る人間だ。
「宅建の資格」を取り、少しでもいい仕事につこうと努力をする。
だが、ここまで不合格続き。

母は1人で家計を切り盛りするのだ。

 

そしてある日、宅建の試験で父は「不正」を行い逮捕される事態に陥る。
それでもスインは、自分の夢のために練習を続けるのだ。

 

母は夢を追い続けて、不正に手を染めた夫のこととスインを重ねる。
「女子プロ野球選手」という夢を追いかけるほど、スインの将来がダメになることを危惧して、彼女のグラブを燃やしてしまうのだ。

このシーン、スイン目線で描写されているので「ひどい仕打ち」だと辛くなるが、親目線でみると、母もスインのことを思っての行動だとも言える。

何もそんなに苦しい道を歩かなくてもいいと思ってのことだ。

 

そして「諦めるのは恥ではない」というセリフが胸に刺さる。

 

母は誰よりもスインの努力を見てきた、誰よりも応援してきたのだ、誰よりも誇りに思っているのだ。

だからこそ「諦めても恥ではない」と告げる。
十分、その凄さはみんなに伝わっていると・・・。

 

ただ、それでもスインは夢を諦められない。
母はついに実力行使で娘の挑戦をやめさせようとする。

そこで父が初めて母を説得するのだ。
(不正したことは悪いことなんだけどね)

それは自分も「夢追い人」だからこそ、スインの気持ちが分かるのだ。
そして、今度は母にだけでなく、自分の「夢を捨ててでも」スインの「夢を叶えよう」
そのためにサポートすることを誓うのだ。

 

ここでスインの夢は、一家の夢に変わるのだ。

こうしてスインは「トライアウト」参加にこぎつけることになる。

 

スイン1人の夢、それがジンテの夢にもなる、そして一家の夢になる。

 

最初は女子として、他の参加生からも馬鹿にされるスインだった。
だけど彼女と同じく女性プロ入りを目指して、参加している女子選手からエールを受け、実力を発揮。
トライアウトでは、異例の一軍四番打者と対戦することになる。

 

2ストライクとスインが追い込む。
馬鹿にしていた練習性も彼女にエールを送る。

勝負球。
彼女の美しいフォームから投げられる球種がなにか?
そして結果がどうなるのか?

それは全て劇場で見てもらいたい。

 

 

ポイント

✅母の心情も深く理解できる。

✅スインの夢は、反対していた母を含めた、家族の夢になる。

✅トライアウト参加性全てが、色眼鏡無く「投手」としてスインを認めるシーンが素晴らしい。

 

今作品をふりかえって

ざっくり一言解説!!

知らず、知らず、自分で自分を「型にはめているのかも」

一本の「スポ根」映画としても非常にクオリティーの高い作品!

まとめ

 

今作品でスインは、周囲から「女性選手として」「女性選手」として注目され、話題にされてきた。

そのせいで、実は自分自身にも「女子だから」という固定観念を持ってしまっていたのだ。

 

 

だからこそジンテの言葉にも耳を貸さなかった。
だが、彼は「1人の投手」としてスインが「プロ選手」になるのは厳しいと指摘したのだ。

 

ある種「男女」関係なく「プロ」になるのは厳しい道程がある。
当たり前だが「プロ」は「実力」がないとなれないのだ。

そして130キロ以上の球速を投げられないのは「男女」関係ない。

投げられないなら「プロ」になれない。
それはある意味で必然だ。

 

そんな出来ない道を進むのではなく、あくまで「他の選手」よりも「筋力・体力」で劣る選手がどうすれば勝てるのか?
模索し「かわす技術」で「プロ入り」を目指そうとスインはジンテの助けを借りて努力するのだ。

そして、この考え方は、かつて野村克也氏が述べたことにも通ずるのだ。

 

さらに今作はスインの夢が、その家族の夢になるシーンも見逃してはいけない。
厳しい道で苦しむ娘を心配する母の心も察することはできる。

誰よりも娘をみてきたからこそ「諦めるのは、恥ではない」といえるのだ。

ただ、それでも、それでもスインは進み続ける。

 

 

最後トライアウト会場で母は娘が、マウンドで強敵と対峙するのを見届ける。
そして、そのラストの一球を見届ける姿が、我々の心に突き刺さるのだ。

 

「スポ根」として、そして「家族愛」を語る作品としても、「努力の尊さ」という点を描いた観点からみても、今作品は非常に見応えのある、素晴らしい作品だったと言える。

どうやら、今年も「韓国映画」は我々に素晴らしい体験をさせてくれそうだ!!

 

まとめ

  • スイン自身も「女子だから」という「型にハマっていた」
  • どうすれば勝てるのか?
    それは野村克也氏がかつて述べていた。
  • 一本の映画として過不足なし、すばらしい作品だ!

さて、久々の映画館での鑑賞はたのしかった!!
さて来週は、何をみようかな!!

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