映画評 評論

やはり『バービー』は名作だった!

2023年8月14日

今回も新作映画を鑑賞してきたので、感想・評論をしていきたいと思います。

今回は、世界中で愛され続けるアメリカのファッションドール「バービー」を、マーゴット・ロビー&ライアン・ゴズリングの共演で実写映画化した作品。
日本では8月11日より公開された『バービー』

こちらの感想を述べていきたいと思います。

 

『バービー』について

基本データ

基本データ

 

  • 公開 🇯🇵2023年8月11日
  • 監督 グレタ・ガーウィグ
  • 脚本 グレタ・ガーウィグ/ノア・バームバック
  • 原作 マテル
  • 出演者 マーゴット・ロビー/ライアン・ゴズリング

 

あらすじ

すべてが完璧で今日も明日も明後日も《夢》のような毎日が続くバービーランド!

バービーとボーイフレンド? のケンが連日繰り広げるのはパーティー、ドライブ、サーフィン。

しかし、ある日突然バービーの身体に異変が! 原因を探るために人間の世界へ行く2人。
しかし、そこはバービーランドとはすべて勝手が違う現実の世界、行く先々で大騒動を巻き起こすことに─!?

彼女たちにとって完璧とは程遠い人間の世界で知った驚きの〈世界の秘密〉とは?
そして彼女が選んだ道とは─?
予想を裏切る驚きの展開と、誰もの明日を輝かせる魔法のようなメッセージが待っている─!

公式サイトより引用

冒頭から爆笑の展開

今作はやはり、グレタ・ガーウィック作品だ。
鋭い批評的な目線が随所に組み込まれており、唸らされた。
だが、それ以上にどの過去作と比べて、ポップで明るく、そして笑える映画に仕上がっている。

 

映画冒頭、女の子が赤ん坊の人形の世話をする、いわゆる「おままごと」をしているシーンから映画は始まる。
これは「バービー人形」が誕生するまで、「人形遊び」とはイコール「おままごと」だった。
だが「バービー」が誕生して、その概念が覆るのを描いている。

この覆りのシーン、これはまんま『2001年宇宙の旅』冒頭のモノリスと接触して、新しい知恵を原人が学ぶシーンのパロディだ。
(ご丁寧に「ツァラトゥストラはかく語りき」をBGMとして採用している)
「バービー」の存在を知った子供たちが、一心不乱に、赤ちゃん人形をぶっ壊すシーンは、いきなり吹き出してしまうほどに爆笑させられた。

 

しかしこれは、ただパロディで終わらない。

従来「おままごと」とは、いわゆる「女の子」が将来「母になる」ことを前提とした遊びであり、「女性とは子育て、家事をすべき」という固定概念を生み出す権化だとも言える。

こうした「女性とはかくあるべき」という構図をぶち壊す存在が「バービー」だったというわけだ。
それが映画では文字通り、赤ちゃん人形の破壊で描かれる。
この破壊はまさに「価値観」の破壊なのだ。

そういう意味では、確かに『2001年宇宙の旅』のモノリスの接触と同じほどのインパクトあることだとも言えるのだ。

 

この「バービー」は1959年に販売開始された、着せ替え人形で、女の子たちが思い思いに様々な服を着せて、自分自身を投影して遊ぶことができる。
元々は白人・金髪、スレンダーな体型の人形だったが、時代の流れとともに、体型の多様化、目の色・肌の色など多くの種類が販売されている。
最近では義足、車椅子、ダウン症といった多様性を反映されながら展開されるなど、64年の歴史で変化をしてきたのだ。

 

作中でも「バービーワールド」のバービーたちは「自分たちが女性の地位向上に役立ってきた」と、それを誇りにしているセリフがいくつもある。
前述したが「バービ」出現によって「おままごと」遊びの根底にあった「女性は母親になる」という価値観が破壊された。
そして多様な職業レパートリーで自分の夢が無限にあることへの希望を持つことに貢献してきたと。

 

確かにそれらは事実なのかも知れない。

ただひょんなことから現実世界にやってきたバービーは、自分の持ち主の女の子サーシャと出会い、自分の存在価値を否定されてしまう。
そもそも「バービーワールド」は女性が中心(バービー中心の世界)で、女性が社会を回している。
しかし、現実ではやはり男性が主要なポストを占めており、男性中心で世界は回っている。

そして世の男たちは、数々の下ネタでバービーを困惑させるのだ。

では、女の子たちなら「バービー」を愛してくれているのかと思いきや、今時の女の子(Z世代)のサーシャたちはむしろ「バービー」を否定する。
そもそも基本となるバービーの体型が、女性の性的な理想化であること。


編集長
ちなみに演じるのがマーゴット・ロビーという点がそのことを、さらに強く印象付けている

様々な職業のレパートリーがあるが、そのせいで逆に「自分たちが何者にならないといけない」という重圧を課す存在であること。

そもそも、現代にそぐわない過去の遺物であることを突きつけられてしまうのだ。

ケンという存在

さて、こうして現実世界と自分たちの信じてきた理想のギャップの差に打ちひしがれたバービーだが、かたや現実世界のあり方に感銘を受けてしまう人物がいる。

それがバービーの仲間の人魚である「ケン」だ。
彼はいわゆるバービーのおまけ的な存在。
現実的にもやはり、彼だけを買う消費者は少なく、バービーありき、つまりバービーという存在に完全に依存していると言える。

それは「バービーランド」でも同じだ。
「バービー」たちはハウスと呼ばれる家を持ち、毎日素晴らしい日々を謳歌している。
この作品の冒頭でも描かれるが、朝は素敵な朝食、そしてマイカーを持っている、そして夜はみんなでパーティーに興じる。

方やケンはというと、特に家もなくパーティにも招待されない。
そして周りのバービー達から、軽く扱われている。
バービーの前では明るく振る舞うが、それでも心の中にルサンチマンを抱えているのだ。

 

そしてこのルサンチマンに加えて、彼は「バービーと違い何者でもない」ことに不満を抱いているのだ。

 

そんなケンにとって現実はまさに「天国」のような場所だった。
医者も、会社の役員も、工事現場も、様々な役職・仕事で「男」が中心として世界が回っている。
男が「何者」にでもなり得る世界だったのだ。

そこで彼は「男」であることをアイデンティティの拠り所とすることになったのだ。

彼はこの「現実」こそが自分の求めていた理想の世界。
そう考え「バービーランド」に帰国後、世界を作り替えようとしてしまうのだ。

編集長
この作品が巧みなのは、あくまでこの部分は「バカっぽさ」を維持している点で、笑えるシーンになっている

 

ケンがバービーハウスを「夢の道場カサ・ハウス(モジョ・ドージョー・カサ・ハウス)」といういかにも馬鹿げた名前に変更し改造する。
これは古き良き「男」を象徴する「力」を前面に押し出した、ある種の彼の理想郷なのだ。

彼らの男尊主義は瞬く間に「バービーランド」を支配。
そこに住むバービー達は洗脳され、威厳と尊厳を失い、彼らに奉仕するためだけの存在に変化していくのだ。

この作品が驚かされるのは、実はヴィランは「ケン」なのだ。
しかし、この作品は彼らが「ヴィラン」になる理由、つまり「おまけ」でしかないことへのルサンチマンが原因であることをきちんと描いている。

これは構図を変えれば現実で「女性」が味わってきた苦痛、抑圧でもあるのだ。

 

だが、このケンが作る理想郷、つまり「何者にもなれる」という世界。
これは前述したバービーがサーシャに否定された世界だとも言えるのだ。

とどのつまり、この世界を構築したとて、バービーもケンも同じ問題に直面してしまうということだ。

何者にならなくてもいい、そのままでいい

前述したように、この作品バービーとケンが目指す「何者にもなれる」という理想。
それはある一定の意味合いでは正しいのかも知れないが、実際それは現代っ子への圧力にしかならない。

ただそれをわからず暴走するケン。
そのことを知り、ショックで項垂れるバービーという構図で描かれていく。

そんな2人を励ますのが現実世界から、2人を追いかけてやってきたサーシャとその母グロリアだった。
そもそも今作品でバービーが突然「死」について考えたのはグロリアの影響が強かった。
グロリアは大人になり子育てをしている中で、変化している自分を「死について悩むバービー」「セルライトに悩むバービー」を描いていた。

そのことが「バービー」に反映されていたのだ。

 

そんな彼女が見た「バービー世界」はケンによって支配されている。
そんな世界を救うためにグロリアは「女性であるから苦しいことがある」という現実の言語化、その上で「何者になる必要はない」と「バービー」に解くのだ。

この作中で「バービー」は自分たちの存在理由「何者にもなれる」要は「希望」として自分たちが存在している。
そこにある意味で「何者」であるかを自認していたし、それが生きる指針だった。
しかし「何者でもなく、ありのまま」でいいことを気づき、バービー達は尊厳を取り戻すのだ。

 

そしてそれは、そっくりそのままケンにも向けられる。

ただこのケンの説得もあくまで説教くさくなく、バカっぽい作戦で実行されていく。
特にケン同士の戦いは見どころたっぷりだ。
そこからエアロビダンスの場面は抱腹絶倒の切れ味で描かれていく。

しかし、最終的にケン自身も「何者になろうとしてもがく」そのことの苦しみを吐露する。
そしてケンは世界征服を諦めるのだ。

そしてバービーもケン達のことを尊重するという点で折り合いをつけ、この問題は解決をしていく。

完璧ではない、でも「それでもいい」

ただ、この作品が最も深いのは「バービー」の生みの親とも言える「ルース・ハンドラー」の人生も肯定していく点だ。

この構図はグレタ・ガーウィックの前作『ストーリー・オブ・マイ・ライフ 私の若草物語』でも描かれた。
ここでは主人公ジョーと『若草物語』の作者オルコットの人生どちらも肯定する結果を作中で描いた。

つまり『若草物語』の登場人物としてのジョーには結婚という幸せを与えたが、作者自身は独身で幸せを手にした。
それを並列する形で描くことで、「マイ・ライフ」における幸せは、あくまでそれぞれの人生に用意をされているという着地にして見せたのだ。

 

今作ではバービー産みの親、ルースの人生をバービーが生きる指針として見せる。
というのも、ルースはバービーを生み出した後、乳がんを患い、摘出手術を行なっている。
この出来事で、彼女は「自分は普通とは違う体になった」ことを自覚し、バービーを多様化させる方向に向かっていくきっかけになった。

だが、その裏で「マテル社」で不正を行い、米国証券取引委員会へ虚偽の報告を行い会社を追放されている。

そのことが作中でも明らかにされる。

 

この作中バービーは「人々に理想を与える存在」であるべきだと信じていた。
しかし、実際は「完璧」とは程遠い。
だが「完璧」であることに意味を見出すのではなく、不完全であること、それでも「いい」と最後にこの作品は答えを出している。

バービーの産みの親ルースも、不正を行い決して褒められた人生を送ってはいない。
病で自分が理想としていた体ではなくなってしまった。

ただ、それでもその不完全さこそが「その人そのもの」
つまり作中で描かれた「何者でなくていい」「ありのまま」その自分を「誇りにしてほしい」と、ルースの人生を肯定しながら、我々に伝えるのだ。

 

作中ラスト、バービーは大きな決断をする。

「永遠」に繰り返しの日々を生きる存在だった彼女は、現実で「変化」の象徴、つまり「老い」を「美しい」と感じるのだ。
バービーは元々は「バービーランド」で「不変」であることこそ大切にしていた。
というより、それを「正きこと」と考えていた。

しかし「変化すること」に折り合いをつけようとするグロリアの影響を受け、彼女も変化を欲するようになるのだ。

 

「生きている」とは「変化」をすることと切っても切り離せない。
バービーは「変化」を受け入れることで真の意味で「生きる」ことを選択するのだ。

 

 

最終的にバービーは現実世界での「生」を選び、バーバラ・ハンドラーとして生きる。

編集長
バーバラはルースの実の娘で、「バービー」の名前のモデルであり、ルースがバービーを作るアイデアを与えた存在だ。

そこで彼女は「婦人科」の診察へ行くところで物語は幕を閉じる。
作中、彼女とケンは「生殖器」がないと言っていたが、「人間」として生きることになるバービーは、本質的な意味合いで「性」を持つことになる。

自分とまず本格的に向き合うことが彼女の「生きる」ことの第一歩になるのだ。

この作品はある意味で「バービー」が本当の意味で「女性」とは何か?
という問いかけに直面し、そしてその上で「女性」として誇り高く生きていくことを選ぶ作品だったといえる。

 

ただ、この作品が「ポリコレ」的な映画ではあるものの、あまり説教くさくならないのは、やはり「ポリコレ」の要素を笑いという形で昇華しているからだ。
考えれば深みはあるものの、今作品はグレタ作品の中でも笑いの要素が多く、一般ウケしやすい作劇であることは間違いない。

映画としてもおすすめだが、グレタ作品の入門としてもおすすめなので、ぜひ劇場で鑑賞していただきたい。

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